助産師に聞く 妊娠後期のQ&A
妊娠後期の悩み・不安
出産を間近に控えた妊娠後期は、からだだけでなく、心も不安定になりがちです。
ひとりで抱え込まずに、助産師さんに相談をして残り少ない貴重な妊娠期間を存分に楽しみましょう。
出産に向けて軽い運動をしたいのですが、注意することは?
妊娠後期は、お産に向けて適切な体重管理と体力づくりが特に大切な時期です。
妊娠中は体調の変わりやすさや安全に対する心配から、運動不足に陥りがちです。また最近は、体重管理を食事のみでコントロールしようとして低栄養状態に陥っている妊婦さんが多いことからも、妊婦さんの体力不足が心配されます。
そのため、出産・育児期に向けての体力づくりには、“栄養バランスの摂れた食生活”と合わせて、“妊娠中の適度な運動”も大切なポイントになるでしょう。
妊娠中の適度な運動は、マイナートラブルの予防や改善、精神的なリラックス効果が得られ、健康維持・増進につながると言われています。特別な合併症がない妊婦さんは、体調に合わせて1日30分以上の有酸素運動を、週に2~3回行うことが医学的に薦められています。
ただし“運動”と言っても、妊婦さんに適した運動と適さない運動があるので、安全性を見極めて行う必要があります。
◆妊婦さんに適した運動と適さない運動
◎妊婦さんに適した運動
最近、マタニティヨガやマタニティビクス、マタニティ水泳など妊婦さん向けに組み立てられた運動が増えてきています。このような運動は、妊娠・出産に関する知識をきちんと持ち合わせたインストラクターのもとで適切に行えば、安心して安全に運動ができるでしょう。
誰でも気軽に生活に取り入れやすい運動はウォーキングです。正しい姿勢で普段よりも少しスピードアップしながら歩けば、効率よくカロリー消費をでき、体重管理に役立つでしょう。また、お産の時に必要となる骨盤の筋肉や持久力を鍛えることができます。
このような有酸素運動を1日30分以上行い、週2~3日のペースで続けることで体力もつきます。お産を乗り切るためにも、産後の回復をよくするためにも、よい効果をもたらすことでしょう。
ただし、すべての妊婦さんが運動をしてよいとは限りません。その時期の体調や合併症により、運動を控えなければいけない場合もあります。運動を始める場合は、必ず医師に運動の内容と運動をしてもよい体調かどうかを確認しましょう。
◎妊婦さんに適さない運動
グッと息をこらえたり、踏ん張ったりするような筋肉トレーニング、上下運動の衝撃が強いマラソンや縄跳び、おなかにぶつかる危険性がある球技、つまづく危険性が高いテニスやバドミントン、卓球などは、妊婦さんには適さない運動なので避けましょう。サイクリングも転倒の危険性があるため、お勧めできません。
◆こんな時はお休みを
医師に運動を許可されたとしても、妊婦さんの体調や体質は変わりやすいものです。医師に許可された日は大丈夫でも、もしかしたら次の日は運動をお休みしたほうがよい体調になってしまうかもしれません。自分のからだにしっかりと目を向けて「今日は運動をしてもよい体調か?」「今、運動を続けても大丈夫か?」ということを気に留めながら、判断するようにしましょう。
妊娠37週に入る前は、「普段より頻繁におなかが張る」「おなかが痛い」「出血があった」などの違和感がある時や判断に迷う時は、“やってみて様子をみる”のではなく、大事を取ってその日の運動はお休みをしましょう。
また、運動をしている最中にそのような違和感が出てきた場合や、立ちくらみがする、頭痛がする、呼吸がしづらいなどの不快な症状が出てきた時は、運動を中止しましょう。運動のために外出している場合は、少しその場で休憩をして、落ち着いた頃にタクシーやバスで帰ることをおススメします。
もし、このような症状が続く場合や、強くなってくるような場合は、早めにかかりつけの病院を受診しましょう。
◆運動を行う際の注意点
◎自分のペースで動きましょう。
マタニティヨガやマタニティビクスなどのクラスに参加する場合、周りのペースに合わせて、無理をしてしまうことがあるかもしれません。体力には個人差がありますし、体調もその日によって異なります。ご自分のペースを守って、無理のない範囲で、楽しみながら行うことを心がけましょう。
◎運動の合間に、おなかの張りのチェックを
運動の合間に、おなかが張っていないかどうかの確認をするようにしましょう。おなかの張りや痛みの感じ方は人それぞれ。張りの感じがよく分からず、自覚症状がなくても、実際には張っていることもあります。おなかが張っている状態で運動を続けることは、安全とは言えません。状況によっては運動を中断して、病院を受診する必要がありますので、運動の合間におなかを触って張りの確認をするようにしましょう。
◎楽な服装と安定した靴で。
運動を行う際は、ウエストを締め付けず、手足を動かしやすい服装で行いましょう。また、足元は、ヒールやサンダルだと転倒してしまう危険があるので、履きなれたスニーカーで行うようにしましょう。
◎母子健康手帳・保険証を携帯しましょう。
出先で受診が必要な状況になったり、トラブルが起きたりした場合に備えて、これまでの妊娠経過がわかる母子健康手帳と保険証は必ず携帯しましょう。
以上のことに注意して、安心な環境で、楽しく継続して運動を行いましょう。
妊娠中に運動をしたからといって、「帝王切開を避けられる」とか、「お産がスムーズに進む」とは限りません。しかし、もしお産が最初に思い描いたイメージとは違ったものだったとしても、妊娠中に行った運動は出産に向けた体力づくりだけではなく、育児に向けての体力づくりにもなっていますので、決して無駄な事ではありません。
そして、後のライフステージにおける生活習慣病の予防のためにも、運動を継続していくことができれば、とても意義があることではないでしょうか。
回答いただいた助産師さん
大谷紗弥子さん
聖母病院(東京都新宿区)勤務。
妊産婦さんやそのご家族が安心して新たな家族を迎えられるようにサポートをするかたわら、妊娠前の女性や妊婦さんへの食育やマタニティヨガを通して、女性のからだづくりにも携わっている。