助産師に聞く 妊娠後期のQ&A
助産師に聞く 妊娠後期のQ&A
妊娠後期の悩み・不安
出産を間近に控えた妊娠後期は、からだだけでなく、心も不安定になりがちです。
ひとりで抱え込まずに、助産師さんに相談をして残り少ない貴重な妊娠期間を存分に楽しみましょう。
Q.
パパが立ち会いをする場合、どのようなことに気をつければよいですか?
立ち会い希望の場合、あらかじめ知っておくことや現場でするべきことはなんですか?
パパが立ち会いするメリット・デメリットは?
A.
立ち会い出産を選択するカップルは年々増えています。
“立ち会い”出産というと赤ちゃんが生まれる瞬間に立ち会う場面をイメージする方が多いようです。もちろん、最後の場面はそうかもしれませんが、立ち会い出産は、陣痛が始まってから赤ちゃんが生まれ胎盤が出て、お産後の出血が落ち着くまでの期間にママのそばに付き添うことをイメージしておきましょう。
立ち会い出産には、さまざまな考え方があります。ご家族でも、それぞれ考え方が異なることもあります。また、病院によっても考え方がさまざまです。立ち会い出産を許可していない病院や、両親学級を必ず受講した上で立ち会いを許可している病院、立ち会い希望者はパートナーだけではなく赤ちゃんの兄弟なども許可している病院、帝王切開での立ち会いを許可している病院もあります。
ですから、立ち会い出産をお考えの場合は、まず出産予定病院の方針を、事前に確認しておきましょう。まずはママの気持ちを一番大切にし、そして、立ち会い出産のメリット・デメリットを二人でよく理解した上で、じっくり話し合って決めましょう。
・メリット
立ち会い出産をすることで、親としての役割を自覚したり、パパとの絆が強まるきっかけになりやすいなどの影響があると言われています。また、赤ちゃんに対する愛着が強くなり、その後の育児への参加が積極的に行われる効果もあると言われています。
・デメリット
ママが痛がっているところを見ているのが辛く、パパが無力感を抱いてしまうことや、出産中にかけられた言葉に深く傷つき、後に夫婦関係に溝ができてしまうこと、出産後に夫婦生活に影響が出ることもあります。
何よりも、このようなメリット・デメリットはそれぞれの価値観の問題ですので、どのように感じるかはやってみなければわからないというのが事実です。
いざ本番を迎えたら「外で待っていてほしい。」とか、途中で「一人にしてほしい。」など、その時々で気持ちが変わることもあります。立ち会いを予定していなかったけれど「やっぱり一緒にいて欲しい」ということもあるかもしれません。そのような場合は、病院側の条件とご家族の可能な範囲で、臨機応変に対応していただければよいでしょう。
立ち会い出産をしていただくにあたって、知っておいていただきたい注意点があります。注意点を心に留めておきながら立ち会うだけでも、上でお話ししたようなデメリットを少なくできるかと思います。
◆立ち会い出産をする際の注意点
◎教科書通りにいかないこともあるということを理解しておきましょう
まずは、お産の経過、お産の経過中に起こる可能性のあるトラブルについても、きちんと二人で学習をしておきましょう。お産はすべてが教科書通りにいくものではありません。予期せぬトラブルが起こる可能性は誰にでも起こりうるということを頭に入れておきましょう。緊急時にはしっかり医師や助産師からの説明を聞き、パパはママを冷静に精神的にサポートすることが大切です。
◎パパは状況によっては退室する心遣いを
内診や導尿の際など、ママにとって、ご家族とはいえその場にいてほしくない状況もあります。状況に応じて、その場を離れる心遣いが大切です。
◎パパは休憩のタイミングを見計らって、しっかり気分転換しましょう
立ち会い出産ではパパも相当なエネルギーを使います。パパは自分でタイミングを見計らって気分転換したり、食事や仮眠を取ったりして休憩をしましょう。そうしないと、体力的にも精神的にも辛くなってしまい、パパに心の余裕がなくなってしまいます。お産が思うように進まない場合などにママと一緒に焦ってしまったり、イライラしてしまったりすると、ママの精神状態によくない影響を与えることがあります。
お産は長丁場ですから、パパにもそういう時間が必要であることをママも理解しておきましょう。
◎立ち会いの時間は暇な時間ではありません
ママが頑張っている最中、その横でずっと寝たり、マンガ本を読んだり、携帯ゲームをやったり、時にはパソコンを持ち込んで仕事をしているパパを見かけることがあります。ママの前では、サポーターの役割で立ち会いをしているということを忘れないでください。
◎パパは写真・ビデオ撮影に集中しすぎないこと
よく、立ち会い最中に写真やビデオ撮影をしているパパを見かけます。お産の思い出づくりをしたいという気持ちもわかりますが、立ち会い出産をされるパパは見物客ではなく“お産をするママのサポーター”という自覚を持ちましょう。
◎体調管理をしっかりしておきましょう
パパが風邪や、下痢・嘔吐などの症状があるなど体調不良の場合、立ち会いをしていただけないことがあります。病院によって基準は異なりますが、これから生まれてくる赤ちゃんやお母さんへの影響、また、他の患者さんへの感染の危険性などを考慮して、自宅待機していただかなければいけないこともあります。ですから、体調不良の場合は自己判断ではなく、来院する前にママから必ずスタッフにご相談ください。
◎妊娠後期に入ったら立ち会いの準備をしておきましょう
なるべくスムーズに立ち会い出産を迎えることができるように、パパの仕事のことや上の子のお世話のことなどは、早めに準備を始めておきましょう。週末やイベントの多い時期にママがお産を控えている場合、パパはお酒の量にも気を付けましょう。お酒の飲み過ぎなど立ち会いをしていただくにはふさわしくないと判断された場合、立ち会いをご遠慮していただくこともありますので気をつけましょう。
◎お産の時、パパは立ち位置に気を付けましょう
お産時は分娩介助に迷惑にならないように、頭の方にいるようにしましょう。また、医療機器を触ったり、医療器材が置いてある棚に勝手に荷物を置いたりしないようにしましょう。
陣痛で苦しむ姿を目の前に無力感を抱いてしまうパパも多いようですが、産婦さんにとってパパの存在はとても大切なのです。ただそばに一緒にいてくれるだけで気持ちが安心する産婦さんも多く、精神的サポートが一番心強いようです。
◆パパにしてもらいたいこと
◎呼吸法のリード
陣痛が強くなるにつれて、なかなか上手に呼吸法ができなくなります。そんな時、パパのリードが大切になります。陣痛が強くなってくると、産婦さんは精神的に冷静でいられなくなることがあります。そんな状況にパパも一緒に飲み込まれてしまうこともあるのですが、できるだけパパはママに落ち着いた態度で接してください。そのためには、妊娠中から分娩の経過と、その時々に適した呼吸法を練習して、本番に備えましょう。
◎腰や足、お尻、背中のマッサージ
ママの体の緊張を和らげる方法として、マッサージはとても効果的です。呼吸法の練習と一緒にマッサージの練習もしておくといいでしょう。ママは自分がリラックスするためにはどのようにして欲しいかを、気を遣わずはっきりパパに伝えましょう。
◎わがままのはけ口
陣痛で辛い中、人に気遣いをするのはとても難しく、そんな時にわがままを言えるのは家族だけです。痛みをこらえるあまり、パパはママから暴言と感じる言葉を投げかけられるかもしれません。しかし、この時ばかりは優しく受け止めてあげてください。
◎お散歩のお供
陣痛が始まってから、気分転換やお産を進めるために、病棟内や分娩室内を歩きまわったり、階段を昇り降りしたりする過ごし方をお勧めすることがあります。パパは陣痛の合間には一緒におしゃべりしながら歩き、陣痛中は腰をさすったり、もたれかけさせたりするなど、支えになってあげながら、お散歩のお供をしてあげましょう。
◎食事のお手伝い
ママが食事を摂ることが許されていれば、陣痛と陣痛の合間に食べられるもの・飲めるものを摂り、エネルギー切れにならないようにしなければいけません。タイミングを見計らって、小分けにした食べ物や飲み物を口に運んであげましょう。
立ち会い出産で大切なのは、お産に至るまでの道のりを、気持ちをひとつにして二人で乗りきることです。出産は想像以上に極めて動物的なものです。今まで見たことのないようなママの表情や聴いたことのないような声、感じたことのない強い力を目の当たりにして驚くことがいっぱいかと思います。パパは「どんなことがあっても冷静にサポートする」という覚悟をもって臨み、新しい家族として赤ちゃんを迎える場面に立ち会ってもらいたいと思います。そして、お産が終わったら、共にお産を共有した者としてお互いにねぎらいの言葉を掛け合うようにしましょう。
回答いただいた助産師さん
大谷紗弥子さん
- 聖母病院(東京都新宿区)勤務。
妊産婦さんやそのご家族が安心して新たな家族を迎えられるようにサポートをするかたわら、妊娠前の女性や妊婦さんへの食育やマタニティヨガを通して、女性のからだづくりにも携わっている。