持田ヘルスケア株式会社

スキナベーブ エッセイコンテスト

【第9回】
~ 赤ちゃんと笑顔 ~

入選

にいちゃんの笑顔

広島県  パート  46歳

「あかちゃん、うまれるよ」
散歩の途中、もうすぐ3歳になる長男が言った。
「え?どこに産まれるの?誰か、そういう話をしてた?」
保育所の先生か、それともどこかの子供が話していたのだろうか。おばあちゃんがどこかで聞き込んできたのだろうか。あかちゃんが産まれそうな家を色々思い浮かべる私に彼はもう一度言いきった。
「あかちゃんがうまれるんよ」
「しゅんちゃん、お母ちゃんにはあかちゃんできんよ。悪いけど。」
だってまさかでしょ。もう44歳。この子だって、不妊治療の末やっと授かった。しかも、体外受精で。できるわけがない。そりゃあ一人っ子よりは、兄弟が何人もいたほうがいい。この子が大人になった時、親がいなけりゃ誰に相談できる?だけど、時間と年齢、また、結構なお金を考えるとねえ・・・それが正直な気持ちだった。それよりも、近頃続く原因不明の背中の痛み、胃が悪いのかそれとも何か悪い病気なのかと近々検査に行かなければ、と思っていた。だから、
「6週目に入ってますよ。」と言われたときは、本当にびっくりした。うちの子、予言能力でもあるんじゃないかと。しばらくして、だんだん大きくなった私のおなかを見ながらまた言った。
「あかちゃん、いもうとよ」
ほんとかいな。もしそうだったら、すごいけど。半信半疑。7ヶ月に入ったところでたまらず聞いた。
「先生、男ですか、女ですか」
平成21年1月18日。朝5時半から、陣痛が始まる。二人目は楽だよ、とみんな親切に教えてくれたが、なんのなんの苦しむこと8時間あまり。
「お母さん、頑張って!!!」
「もう頑張れません・・・・」
「何、言ってるの!赤ちゃんも頑張ってるんよ!」
そうだった。頑張らなければ、とその時、
「産まれた、産まれたよ!」
2412gのぴかぴかの新生児。女の子だった。しゅんくん、すごいよ、女の子だったよ。当たってたよ。
産まれたばかりのあかちゃんを、助産師さんがそっとお腹に乗せてくれた。一生懸命手足をばたつかせながら、私の乳首にむしゃぶりつくと力強くお乳を吸い始めた。
「この子は元気そうだから、問題ないでしょう。」保育器に入れられることもなく、しばらくそのままお乳を吸い、そして大きな声で泣いた。同じ病院だったこともあって、長男が産まれた時のことを思い出した。
出ないお乳をずっとむぐむぐ吸っていたしゅんくん。病院でも家でもずっと泣き通しだった。
「さくらがいい」
名前はなんにしようかと主人と話していたら、またしゅんが割り込んできた。
「お母ちゃん達、絢香ちゃんにしようか、って思ってたんだけど。冴ちゃんとか、千紘ちゃんとかどうかな?」
「さくらちゃん!」
どこからさくらなんて調べてきたのか。保育所にも近所にも、しゅんの好きな番組にもさくらはいないはず。でも、自分のつけた名前なら妹をかわいがるかもと思い、赤ちゃんはさくらちゃんになった。
しかし、さくらが産まれてしゅんはすごく寂しくなってしまった。赤ちゃんのそばに寄りつきもせず、遠くから見るばかり。退院したその夜、やれやれと電気を消した途端、わーんと突然泣き出した。
「しゅんちゃん、赤ちゃん産まれてからいじわるになったー」
そうか。みんながさくちゃんばかりをかわいがるように見えたんだね。今まで、話題の中心はしゅん君だったのにね。だから、赤ちゃんはかわいいけど、憎らしく思ってしまう気持ちが自分でもつらいんだね。しゅんちゃん、しゅんちゃんはお母ちゃんの宝物だよ、その事に変わりは無いんだよ。
現在、しゅんは4歳、さくらは6ヶ月。少しづつ妹の存在を認めることができるようになった。慣れてきたのかな。二人の寝顔をみていると、あはははと急にしゅんが笑い出した。何か楽しい夢を見ているのかな、さくらを見るとにこーっと笑った。兄ちゃんの笑い声がうれしいのかな。早く二人で遊べるようになるといいね。

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