【第9回】
~ 赤ちゃんと笑顔 ~
入選
新しい家族
静岡県 主婦 34歳
昨年の秋、私のお腹に小さな命が宿った。
我が家は、主人と小学二年のやんちゃな息子、年長さんのおしゃまな娘の四人家族。毎日毎日、兄妹ゲンカやらふざけ合いやらで大騒ぎ。だんだん生意気な口をきくようになってきた子供たちに、私の眉間のシワはよりっぱなし。そんな毎日がせわしなく過ぎていく中で、突然主人が言った。
「もう一人、子供が欲しいなぁ。」
今、何か妙な事言ったような・・・聞き違えだよな・・・もう一度聞き返した。二度目も同じ事を言った主人に、返す言葉がなかった。目が点状態とはこういう状態の事をいうのか。だって、だって、やっと手がかからなくなってきた所じゃん。やっと好きな所へ好きな時間に行けて自由に旅行も楽しめるようになったのに。自分の事は自分でできるようになった所なのに。何より、私の自分の時間ができてきた所だったのに。そんな事が私の頭の中をグルグルまわっていた。
何度も主人と話し合ったが、話は平行線のまま。しばらくそんな状態が続いていたが、少しずつ私の中で気持ちが変化している事に気付いた。外を歩けばいつの間に赤ちゃんに目がいっている。最近産まれた友達の赤ちゃんにも愛しさを感じてしまう。母性本能が体中をかけめぐる。
もう一度、あの小さな体を抱っこしたいと思い始めてからは頭の中は赤ちゃんの事だらけになって、最後の出産を決意した。二人目の子を妊娠中に切迫早産になってしまった事で、二ヶ月間の入院と上の子との離れた生活、周りの人達にもたくさんの手助けをもらい、とても周りの協力なくしてはできなかった事を思いだすと、不安と迷いがたちきれなかったが、主人と子供達の「大丈夫!」という言葉を信じ、頑張ると決めた。
そしてお腹の中に命を授かり、幸せな気持ちにひたっているとまもなく、ひどいつわりで寝込む事になってしまった。子供達の世話をしたいのに、思うように体が動かない事に泣けてくる日もあった。そんな時に助けてくれたのが主人だった。動けない私のかわりに、家事や子供達の事を全てこなしてくれた。二人の子がいるわけだから、過去2回妊娠しているけど、こんなに動いてくれた事があっただろうか。さすがに3人目を切望していただけの事はある。息子の弁当作りから、これだけは何があってもしないといっていた学校の旗ふりまでやってくれた。そんな姿を見ていた子供達も自然に手伝い、私の体を気遣ってくれるようになった。日に日に大きくなっていく私のお腹を見て、「本当に赤ちゃんが育ってるんだ」と命がある事を実感したらしく、毎日お腹の赤ちゃんに話しかけるようになった。
早く会いたいなぁ。元気で出てきてね。
子供達は、赤ちゃんが生まれてくる時を、今か今かと待ち望んでいた。私も、早く会いたいのに会えない期間がこんなにも長く感じるものなんて思わなかった。
そして、その日はやってきた。
「ニャアー」と私には聞こえた。
生まれてきた我が子を見た時、感動で、涙と満面の笑みでぐちゃぐちゃになっている自分がいた。3人目でも、この感動は言葉にできない。
「私達の元に生まれてきてくれてありがとう。」私達家族になる事を選んできてくれた事に心から感謝した。
赤ちゃんを囲み、優しい目を向ける家族の姿をみて「生んでよかった」と何度も思った。
二人のお兄ちゃんになった長男、初めてお姉ちゃんになった長女。
赤ちゃんを見る二人の顔は、普段では見られないとてもとても優しい顔をしている。
いい笑顔だ。
そして、私達をそんな笑顔にしてくれる、今、一ヶ月半の次男も、とびっきりの笑顔を返してくれる日も近いだろう。