持田ヘルスケア株式会社

スキナベーブ エッセイコンテスト

【第9回】
~ 赤ちゃんと笑顔 ~

佳作

はじめての笑顔

104票 安居院 晶子 東京都  主婦  54歳

トンちゃんがニッコリ笑うようになったのは、あと少しで2ヵ月になるころだったね。それまでは、たまにニヤっとするけれど、これは生理的な笑顔というのかな。
ぼんやりした世界が、よく見えるようになってきたんだね。
笑うことを覚えたトンちゃんは「可愛いね。また大きくなったね」と言うと、口角を上げ、ふっくらした頬がますますふっくら、目は線になる。「うっくん、うっくん」声をあげて笑う。
人間の赤ちゃんは弱くて、一人では生きられないから、周りの大人たちの愛情をいっぱいもらえるように、笑顔を神様から与えられたって、なにかで読んだことがある。そうかもしれない。いや違うかも。
トンちゃんを見るパパとママの顔はいつも笑顔だ。その顔を見て、笑顔を覚たんだね。きっと。パパとママと2歳のお兄ちゃん、繋がっている家族のみんな、パパとママの友達、街の人たち。トンちゃんを見る顔は、みんな笑顔だ。
妊娠7ヵ月の時、切迫早産でママは1ヵ月間入院した。点滴の管に24時間繋がれ、トンちゃんが早く生まれないように、ママはじっとしていた。トンちゃんはママを独り占めしてしまった。
ママのママである私(メメ)は、お兄ちゃんの保育園のお迎えと、夕食のお世話をした。メメの都合の悪い日は、パパのママが引き受けてくれた。
若いパパは、やんちゃなお兄ちゃんとの生活とお仕事で、大変疲れたと思うけれど、一度も弱音を吐かなかった。パパは毎日朝食を作り、お兄ちゃんを保育園に預け、仕事の帰りに我が家で夕食を済ませたお兄ちゃんをマンションに連れ帰って、お風呂に入れ、寝かしつけた。
ママのお腹をそっと触っては、「ママ、おとうと」と言っていたお兄ちゃんは、ママの入院中、我が家では涙を見せず、パパを待っていた。夜は、パパにしがみついて寝ていたというのが、いじらしかった。
退院後、ママは細いからだに大きなお腹で、運動しなければと、たくさんたくさん歩いていた。ママが、公園の急なすべり台で、お兄ちゃんとすべり降りたのを見た時は、さすがに注意したけれどね。
予定日に陣痛が来て、ママは再入院した。トンちゃんは、3916グラムと大きくて時間がかかり、帝王切開の出産になってしまった。ママは産む苦しみを二重に味わったのだ。そうやって生まれたのがトンちゃん。ユウトだから、トンちゃん。笑うと自分も楽しくなっているんだろうね。
笑顔は笑顔を生む。この単純なことを大人になると、時々忘れてしまう。大人はなんでも複雑にしてしまうからね。トンちゃんを眺めているだけで、とても幸せな気持ちになる。
その笑顔、忘れないよ。

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