持田ヘルスケア株式会社

スキナベーブ エッセイコンテスト

【第8回】
~ 赤ちゃんとわたし ~

入選

何名様?

埼玉県  主婦  31歳

五年前に長男を身ごもった時、はじめての超音波検査でみるそれは、素人の目では「命」とは確認できない私の細胞の一部みたいだった。なんだかふわふわとした不思議な感覚で「あー、私、妊娠したんだ・・・」とまるで人事のよう。それでも2ヶ月、3ヵ月と順調に大きくなるそれは次第に目を見張るほどに姿を変えて、明らかに私の中に宿る「もうひとつの命」と主張し始め、素人の私でも一目で超音波画面のどこに我が子が寝ているのかわかるようになった。
主人への報告もはじめは「これがそうなんだってー」だったのが、「ほら!ここにいるの!こっちが頭でこっちが足!」と我が子の成長とともにテンションもあがる。
安定期に入りつわりも治まって、主人と二人で久々に休日のレストランに行った。つわりで引きこもりがちだった私には店内の雰囲気がなつかしく、少し膨らんできたおなかに手をあてながら店員さんが来るのを待っていた。ほどなくして「おまたせいたしました。何名様でしょうか?」と声をかけられた。私は喜びに近い戸惑いを覚えた。それに気づいたのか、それとも主人も私と同じことを感じたのか、主人は私と目を合わせて含み笑いをした。そのあと冷静にいつもどおり「二人です」と主人は答えた。アルバイトらしいその店員さんは、一瞬の私達のやりとりに少し怪訝そうな顔をしていた。
帰りの車で、「どこから見ても二人連れだけど、パパとママと赤ちゃんと、命が3つあるんだよね。誰にも見えない命がここにあるんだよー、って教えたくなるね。」「何ヶ月くらいから三名様になるかな。」と新婚らしい幸せいっぱいの、はたから見ると少し頭の痛い会話に花が咲いた。私は真剣に、「命」の数で考えると世界の人口はどれくらいになるのかなー、なんて考えたり、今までにどれくらいの見えない「命」とすれ違ってきたのかなー、なんて考えたりもした。
臨月も近くなり、「ボクここにいるよ!」と主張してきた私のお腹。電車に乗れば席を譲ってくれる人がいたり、買い物に行けば「何ヶ月?お大事にね。」と気遣ってくれる見知らぬ人たち。私と赤ちゃんと二人分、いろんな人が気にかけてくれることが嬉しくて仕方なかった。誰かに優しくされるたびに、感謝、責任、愛情、というものがどんどん大きくなる。パパからもらった命をママが大事に守り、あなたは育つ。そうやって大きくなると思っていたけど、それだけじゃなくてもっともっと大きなつながりがあっていろんな形で守られていたんだ、と思う。出産も間近に迫り気分も高揚しているせいもあってそんなスケールの大きなことが頭をよぎった。
みんなに支えられたおかげで、最初は人事のようだった私も少し母親としての自覚をもち、あなたは時を見計らうように産声をあげた。やっと会えた。立派に育ったね。ママも頑張ったよ。お腹にいるあいだ、いろんな事に気づかせてくれてありがとうね。パパとママとあなたと、三人家族、仲良くしてね。
お宮参りの帰りに寄ったレストラン。「何名様ですか?」の問いに堂々と「三人です。」と答えたパパ。一応、お水を三つ持ってきてくれた店員さん。「この水って・・・。一歳になるまではまだ二名様でいいかもね。お水飲めないし、お箸持てないし・・・。ママもあなたも半人前だから、二人で一人って事にしておこうか。」と私は笑った。
そして今、隣には、「パパ、ママ、ぼく、弟の四人家族です。」と生意気をいう五歳のあなたが座っている。

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