持田ヘルスケア株式会社

スキナベーブ エッセイコンテスト

【第8回】
~ 赤ちゃんとわたし ~

入選

高感度センサー搭載

埼玉県  学生  34歳

私が幼い頃に育った東北では、飴玉にも「こ」をつけて「飴っこ」と言っていた。だから「子」にも「こ」をつけて、「こっこちゃん」という胎児名をつけた。
待ち焦がれていたこっこちゃんがおなかにやってきたのは、3回目の結婚記念日を迎えた直後だった。その月末には仕事を辞めることが決まっていて、年度末で忙しいのと、残務処理で忙しく、蓄積した疲れと体調不良とでやっとの思いで日々を送っていた。そのような中で、だるさ、下腹部痛、眠くて仕方がない時は「この子が早く帰れと言っているのだろう」と都合よく解釈することにした。誰に何か言われても「この子を守るのは私だ」と主張しよう、という強い気持ちが湧いてきて、堂々と定時帰宅や有給休暇の消化を図った。そして、退職の日を迎え、4月からは妊婦大学院生としての新たな生活がスタートした。
入学してから安定期に入るまでの1ヵ月半は、だるくてぐったりしていた。でも、なぜかこっこちゃんに手を引かれ、背中を押されているイメージが湧いてきて、大学に向かうと不思議と体調が良くなった。もしかしたら、こっこちゃん自身が大学に行きたいのではないかと思うようになった。それは、胎動を感じるようになって確信に変わった。つんつんと子宮壁を突っついて私の気を引いて眠らせないようにする戦法や、私が眠りに落ちそうになるたびに胎動で起こすということを心得ていた。こっこちゃんの方がよっぽど講義を真面目に聞いているのではないか、と思ったほどだった。
こっこちゃんの勉強熱心さはこれだけではなかった。レポートに追われて睡眠時間を削らなければならない時には「無理をするけど、ごめんね」と率直に謝ると、まるで「分かった!!」とでも言うかのような、ひときわ大きな胎動が返ってきた。その日は夜中まで起きていたので、こっこちゃんのためにも6時間は眠ろうと思っていた。しかし、普段の起床時間にいつになく大きな胎動で起こされ、レポート課題を再開することができた。まるで「勉強をしなさい」と言われているようだった。いつもなら3時間でスッキリ起きられることは皆無に等しいのだ。仮眠から目覚めるときも、時間になると胎動で起こしてくれた。こうした協力がなかったら、スッキリとした気分で夏休みを迎えられなかっただろう。院生生活はこっこちゃんに支えられていたのだ。
また、こっこちゃんはすでに個性の芽生えを感じさせている。雑誌の下町のグルメ特集を見て、こっこちゃんに「お寿司がいい?うなぎがいい?」と、まずは私が食べたいものから順番に尋ねたけれど、返事がなかった。さらにページをめくるとハンバーグが出ていた。私自身は肉より魚と思っていたので、ついでに聞いてみようと思い、「ハンバーグは?」と言い終わらないうちにボコンという大きな返事。「ロシアンハンバーグだって」と言うとまたボコン。「お肉が好きなの?」またまたボコンと動いた。しかし、近場のハンバーグのお店で手っ取り早く済ませたら、「ハンバーグだよ」と話しかけても何一つ返事がなかった。下町グルメのあのお店が良かったのだろうか。案外、意思も強いようだ。
今、妊娠8ヶ月。注意深くこっこちゃんのメッセージに心を傾け、受け止め、意向に従っていると体調を大きく崩すこともなく、嫌な思いをすることも少ないようだ。妊娠前は無理をしたり、気乗りしないことをして、後悔したり、悩むこともあった。しかし、妊娠を機に私自身の考え方はシンプルになり、思い煩うことがなくなった。こっこちゃんは私を守り、本当に大切なことは何かを教えてくれているようだ。おなかに高感度センサーを搭載して、安心して生活を送っている。こっこちゃんをこの腕に抱くことが楽しみな反面、いつも一緒ではなくなることが少し心細い。私自身が高感度センサーとなれるよう、感性を磨いていく必要がありそうだ。

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