【第8回】
~ 赤ちゃんとわたし ~
入選
ここ「ホレッ!」ワンワン♪
千葉県 パート 34歳
我が家には、超大型犬のヨークシャーテリア(♀)がいる。主人が独身時代に飼っていた犬で、結婚すると、もれなくついてきた。立ち上がると、一六五センチの私と同じくらいの身長があり、肩に手をかけられるとヨロッとするくらい重い。
このヨークシャーテリアが私の妊娠中に出産をして、私より一足はやくお母さんになった。その二ヶ月後に、私が息子の「ケンジ」を出産したのだが、初めての出産・育児で何かと育児書頼りの私に比べて、このヨークシャーテリアのママぶりがすごかった。
ある日ケンジがぐずっていると、私に見かねたのか、この母犬「メイ」は自分のオッパイをケンジに飲ませていた。私が育児書に頼って、まだミルクの時間じゃないからと放っておいたのが原因だった。
また、ケンジがウンチやオシッコをすると、メイは得意の嗅覚でもって私のことを呼びに来た。一度は、それでも私が玄関でずっと立ち話をしていたものだから、メイはお昼寝シートをくわえて、お昼寝シートで寝転がっているケンジごと玄関に運んできたこともあった。メイのおかげで、ケンジのおしりの清潔度は極めて高かったはずだ。(笑)
それとは別のある夏の日には、あまりにも天気が良かったので、私がベビーバスをベランダに持っていき、息子のケンジをプールのごとく沐浴をさせていると、その横にメイがやってきて、私のまねごとをするのだった。自分の片手を泡風呂に入れて、優しくケンジの体を撫ではじめた。“痛くないかな?”と不安に思った瞬間、ケンジはキャッキャと腕をバタつかせて大はしゃぎ。メイの泡だらけの腕はにゅるっとして、ツルツルのスベスベで、私の手で洗うよりも数段気持ちが良かったのだ。なんせ、天然毛100パーセントのモップですからね(そりゃ負けますよ・・・)。
ミルクも、トイレも、沐浴も、みーんな母犬メイの方が上手で、新米ママは“役立たず”でした。
ケンジは二人のお母さん(正確には、一人と一匹)に見守られて、私が一人で子育てするよりも、よっぽど多くの面倒をみてもらえたと思う。
ケンジが大きくなって、『花咲か爺さん』の絵本を読み聞かせる時、私は「ここ掘れ、ワンワン」のフレーズに、母犬メイの“ここが「ホレッ!」いたってないぞ”の心境を重ね合わせることだろう。(笑)