持田ヘルスケア株式会社

スキナベーブ エッセイコンテスト

【第7回】
~ 赤ちゃんとの出会い ~

入選

妻が取り寄せた一枚の写真

千葉県  会社員  54歳

私達が住むマンションのリビングルームに赤ちゃんの写真が一枚飾ってある。妻の親戚の赤ちゃんである。ちなみに我が家の子供はもうどちらも社会人である。息子は地方勤務、娘も忙しそうだ。子供が赤ちゃん時代の写真を立てかけようとでもしたら、「やめてよ」と非難されるのは分っている。
妻の姉の子(妻からすれば姪にあたる)がアメリカで産んだ赤ちゃんである。妻の一番上の姉がご主人を初め家族でロサンゼルスの方に移住して、もう二十年近くなる。妻の姪は日本で生まれて、小学生頃にアメリカに渡ったのである。私の知る限り、何よりバレエを踊るのが好きな、かわいい子供だった。
その子がアメリカで、同じ日本人と結婚し、初めて生んだ子の写真が、我が家にある。彼らが里帰りした時に、妻は間隙をぬって会いに行っている。わざわざ、飛行機に乗り込んでまで出かけていた。その時に貰った写真なのだ。
その妻が一年以上前に入院した。元気が売り物だっただけに、家族はもとより、本人も相当落ち込んだ。出産以外には入院の経験などない妻である。私や子供たちも戸惑った。病室に何を持っていけばいいのか、どう妻と接すればいいのか前例がない。面食らった。
「赤ちゃんの写真、持ってきてよ」妻からの注文だった。娘が引き出しの中から探し出して病室まで持っていったようだ。それをきちんと写真入れに飾ったのである。
「元気が出るのよ。この写真をみていると・・・」。
確かに家族で旅行した時期の写真も妻の病室にはあった。まだ、私がぶくぶくと太っていた頃である。家族が和気藹々として過ごした時間の写真を見ていると、それだけで満足であるはずなのに、妻はそれではもの足りないのである。
「赤ちゃんの写真を眺めていると、ほっとするのよ。それに、私もしっかりしなくてはいけないと思うのよ」と漏らしていた妻。確かに、生命を授かったばかりの赤ちゃんの笑顔は、病気で苦しむ人には勇気を与えてくれるはずである。あの子もこれから色んなことに直面して生きていかなくてはならないのだから、私も早く退院して応援してあげなくては・・・と妻が思ったのかも知れない。そこまでは手が回らず、とにかく早く病気を治して元気にならなくては・・・。と自分のことだけで精一杯だったのかも知れない。
赤ちゃんの写真は入院している間じゅう、病室にずっと置かれていた。ときおり、見舞いにくる人が、「どこの赤ちゃんですか」と控えめに尋ねていた。「孫はまだですけど・・・」と自分の育った環境も織り込んで、妻は説明していた。
そして、その赤ちゃんの写真が、病院から戻って今、マンションのリビングにある。妻と二人で食事を取る機会が増えたが、私達を見守っている。元気を取り戻した妻が、宝物にしている写真である。彼女は口にこそ出して言わないが、苦悶した日々を支えてくれた、この写真を、元気になった今でも眺めていたいのだろう。
たった一枚の赤ちゃんの写真が、どれだけ妻を励ましてくれたことか。今後、もし私の知人にでも入院する人がいれば、そっと「赤ちゃんの写真を置けば・・・」とサジェッションしてあげてもいいだろう。
尚、件の赤ちゃん自身はアメリカに戻り、家族で元気に暮らしている。弟か妹が出来そうだという話を最近、妻から聞いた。

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