持田ヘルスケア株式会社

スキナベーブ エッセイコンテスト

【第7回】
~ 赤ちゃんとの出会い ~

入選

猫と息子と、ときどきオトン

三重県  主婦  27歳

「クション!クション!」
連続くしゃみの音に10ヶ月になる息子は大喜び。キャッキャと手を上下に振って笑っている。それならば、と私がくしゃみの真似をする。我ながら上手に真似が出来たと思っても、息子はちっとも笑ってくれない。
やっぱり、真似じゃなくて本物でないといけないらしい。それも、猫の・・・。
我が家には3匹の猫が同居している。完全な室内飼いなので外で汚れたりしないし、定期的にワクチンを接種しているので伝染病などの病気を持っていることはない。毎日のブラッシングは欠かさないし、爪だって伸びたら必ず切っている。
それでも、妊娠中はずいぶんと多くの人から様々な「忠告」を受けてきた。
「赤ちゃんが猫アレルギーになるよ」
「ミルクの匂いで赤ちゃんに噛みつくらしいよ」
「赤ちゃんの顔の上で寝て窒息させるらしいよ」
子どもの出来にくかった私たちにとって、夫と一緒に育ててきた猫は大事な家族の一員である。悪気はないのだろうがあまり言われてうれしい事ではない。初めのうちは気にせず聞き流していた私も、こう何度も続くとさすがに気が滅入った。
そして息子が産まれ、1ヶ月の里帰りから戻り、初めての猫と赤ちゃんのご対面。
嫉妬して攻撃したりしないだろうか、ミルクの匂いで本当に噛みついたりしないだろうか。そんな私の不安をよそに、猫たちは全く知らんぷり。
ちょっと匂いを嗅ぎに来て、そのまま横をす~っと通り抜けて行ってしまった。
「なーんだ、やっぱり大丈夫じゃない」
3匹の猫たちは息子にちょっかいを出すでもなく、舐めることもなく、泣き声がすると迷惑そうに目を伏せるだけ。
私は猫のそのいつもと変わらない行動に拍子抜けし、ほっと一安心した。そう、猫は何も変わらなかったのだ。変わっていたのは実は私の心だったということに、その時は気づいていなかった。
それからしばらくして、日中は一人きりで慣れない育児に疲れとストレスが溜まっていたのだろう。さらに出産後も周囲から言われる「猫を手放せ」「猫を隔離しろ」という言葉に私のストレスは限界になり、その矛先は猫に向けられた。
「猫がいなかったら掃除を手抜きできるのに」
「猫の世話さえなければ息子を連れて実家に帰ることだってできたのに」
「猫さえいなければ、猫さえ・・・」
とうとう心が折れてしまい、ついに私は耐えきれず夫の前で号泣してしまった。
あんなに大好きだった猫なのに、以前のように愛情を注ぐことができない。
何もかも投げ出して、一人きりでどこかへ行ってしまいたい。
そう泣く私に夫が言った言葉はこうだった。
「今は大変でも、必ず楽しい日々が戻るから。周りが何と言おうと、うちが楽しかったらそれでいいじゃないか。育児に教科書はない。自分が正しいと思ったことを自信を持ってすればいい。猫も子どもも、お母さんがお腹を痛めて産んだ同じ命だって忘れないで」
その時、子どもが欲しいと切に願っていた私が妊娠した時に感じた命の重みは、とてつもなく深く大きいものだったとハッとした。
そして、初めての育児に自信が持てず周囲から得る情報ばかり気にして飲み込まれそうになっていた私は、夫の言葉で心がふっと軽くなるのを感じた。
その後息子は、目で物を追えるようになると、猫の姿を見てうれしそうに声を出して笑っていた。
初めての寝返りは、猫の姿見たさに一生懸命体をそらして成功した。
ハイハイが上手になった今は、猫の後ばかり追いかけて触ろうと一生懸命だ。
泣いていたってグズっていたって、猫の姿を見せればすぐにご機嫌になる。初めての言葉はもしかしたらパパでもママでもなく、ニャンニャンかもしれない。
勉強が出来なくたっていい。運動が苦手だっていい。自分を大切に生き、そして全ての生き物の命を大切にして育ってほしい。それが私の息子に対する、ただ一つの願いなのである。

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