持田ヘルスケア株式会社

スキナベーブ エッセイコンテスト

【第6回】
~ 赤ちゃんが教えてくれた喜び ~

入選

国境を越えて

【一般部門】 宮城県  主婦  24歳

私の夫は中国人だ。けれど、日本で出会い、現在も日本に住んでいるので、あまり国際結婚をしたという実感はない。結婚をしてわずか3ヶ月、私は妊娠をした。私は子供ができにくいのではないか、という勝手な思い込みのため、気がついたときには4ヶ月に入ろうとしていた。ショックで号泣する私に夫は、「ありがとう、本当にありがとう。」と、涙ぐみながら抱きしめた。正直、私はまだ子供は欲しくなかった。まだ若いし、もう少し新婚生活を楽しみたい、今産まなくても・・・そう思った。けれど悩んでいる時間はもうない。夫は結婚前から子供を欲しがっていたのだし、あんなにも喜んでいる姿を目の当たりにしては私の心も揺らぐ。しかし、ここで夫のために産むことに決めれば、いつか夫のせいにしてしまうかもしれない。「あなたがあんなに望むから、私は産んだのよ。」そんなふうには絶対に思いたくなかった。母に相談をしたら、不妊治療で悩む人たちの手記を貸してくれた。本当に多くの人たちが、妊娠できないことを悩み、苦しんでいる現状を、私はそのとき初めて知った。何を迷うことがあるのだろう。この子はたった一人しかいない。今会わなければ一生会えない。私たち夫婦の間に授かった大切な命なんだ。心の底から思いが吹き上げてきて、私は産もう、と決心をした。
中国にいる夫の両親に、妊娠したことを告げると、海の向こうで大喜びしている二人の姿が、電話越しに伝わってきた。それまで、言葉が通じないことで、なかなか上手くコミュニケーションがとれなかったのだが、私の妊娠をきっかけにお互いの距離が縮まったような気がする。月に何度も電話をかけてきては、きちんと食べているか、体調はどうかと、色々心配をしてくれた。言葉や習慣、食べ物、考え方など全く違う国の二人が出会い、そこから新たな輪が広がっていくようで、本当に嬉しい。
ある日、私の実家の家系図に夫が落書きをしていた。私の名前の横に自分の名前、そして二人の間にBOBYの文字。「何これ、BOBYって誰?」尋ねる私に、夫はキョトンとしている。そう、夫は英語がからきし駄目なのだ。BABYと書きたかったらしい。大笑いする私に恥ずかしそうな夫。その日から、お腹の中の赤ちゃんは、ボビーと呼ばれるようになった。「ボビー、起きてるかー?」夫は、毎日お腹に手を当てて話しかけ、職場の仲間に見せるといって、超音波の写真を持って行く。母親の私が見ても、超音波写真はどこが何なのかよくわからない。他人が見てもおもしろくないだろうに、本人は嬉々として新しい写真を撮るたびに持って行くのだ。産まれる前からこの親バカっぷり。実際産まれたら子供の写真を持ち歩いて、会う人会う人に見せるんだろうなあ、と苦笑いをしつつも、何だか微笑ましい気持ちになった。
そんなボビーももう一歳。可愛らしい女の子に育っている。外国の人と結婚すること、こんなにも早く母親になること、つい数年前まで想像もしていなかった。けれど、夫と出会ったことや、娘を産んだことで、私自身多くのことを学び、考えさせられた。子供を産むこと、育てることは、本当に厳しい。辛いことや苦しいこと、嫌になることもたくさんある。でも、月並みな言い方だが、そんな苦労も一瞬にして吹き飛んでしまう、幸せな瞬間が確かにあるのだ。今までの人生で味わったことのないような、心がほんわり暖かくなる幸せな瞬間。
これから、国際結婚をしたことで、私たちは多くの問題に突きあたっていくだろう。夫や両親と、もめることもあるかもしない。それでも、自分で選んだ人生、思い切り楽しみ、できる限りのことをしていこうと思う。そして、娘が日本と中国、両方を愛し、健康に、のびやかに育っていってくれることを何よりも願う。

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