【第6回】
~ 赤ちゃんが教えてくれた喜び ~
入選
君に伝えたいこと
【一般部門】 埼玉県 主婦 26歳
悠太、君には本当のことを伝えたい。ママはずっと、小さな子供が苦手だったの。かわいらしい子がニコニコ近づいてきて笑いかけられても、何と答えればよいかわからない。私には母性本能がない、そう思って自分を納得させるしかなかった。
仕事に夢中にだった頃、妊娠がわかった。正直、「産めない」と思った。
でもパパは「産んで欲しい。その子に会いたい」とボロボロに泣いていた。「産めない」と言える状況じゃなかった。それにまだ生まれていない子のためにこんなにも涙を流せる、この人となら子供を育てていけるかもしれないと、私は悠太を産む決心をしたの。
振り返ってみれば、末っ子だった私は生まれたばかりの赤ちゃんを抱いたことがなかったし、それどころか『赤ちゃん』を近くで見たこともなかった。ただ、『赤ちゃん』が温かいことはなんとなくわかっていた。それはきっと、どんな『赤ちゃん』もお母さんに大切そうに抱きしめられて、守られているから。そんな『赤ちゃん』の温かさも私にとっては未知のもので、怖くて仕方なかった。
お腹がふくらみはじめて胎動を感じる頃になると、自分の中に別の人間がいることを不気味にすら感じてしまう。私とパパの『分身』のはずなのに愛おしく思えない…「私はやっぱり母親になれない」と毎日涙を流した。
予定日より2週間早く破水した。陣痛中、悠太は原因不明の心拍停止が2回あり、もう一度止まったら緊急の帝王切開といわれる。陣痛が始まってから20時間かかって生まれた悠太は新生児仮死だった。産声が聞こえないのに、焦りや不安を感じない。数分後、息を吹き返した悠太を腕に抱いても母親になった実感が沸かない。「やっぱり。私は母親になれなかったっんだ」そう思いながら私は貧血で意識を失ってしまい、悠太は保育器へ移された。
数日後、保育器から出た悠太と同室の許可が下りた。けれどその夜は悠太をベビールームへ預け、翌日パパも一緒に病室へ泊まってもらうことにした。どうしても、悠太と二人きりで過ごす自信がなかったから。悠太を預けて、部屋へ戻って眠ろうと目を閉じると、なぜか涙があふれ出してきた。母親になれなかったから? 違う…、その瞬間、はじめて悠太を愛おしく思ったの。せっかく許可がでたのに、一緒にいられるのに、預けてしまった。急に悠太を抱きしめたくなった。悠太に会いたくてベビールームへ戻った。もうカーテンがひかれていて悠太の姿は見えない。その夜、ママはママになった。ミルクがなかなかもらえなくて泣いていたらどうしよう。寂しい思いをしていたらどうしよう。一晩中、悠太のことを想っていた。翌朝、悠太を抱いた。「もう離さない」と、心からそう思った。母親としてはじめて悠太を抱きしめることができた。
本当の幸せというのは自分でつかみ取るものだと考えてきた。女性の幸せは結婚・出産、そんなのは人から幸せにしてもらおうという依存的な考え方だと否定してきた。でも悠太が教えてくれた。人からもうらうことでしか得られない幸福もある。だから人は一人で生きていけない。悠太がママに教えてくれたこのことを、これからパパとママで悠太に伝えていこう。