【第6回】
~ 赤ちゃんが教えてくれた喜び ~
準優秀賞
天国のお母さんに、ありがとう!!!
【看護師助産師部門】83票 今井 志生子 長崎県 看護学生 21歳
「無事に生まれましたよ!!ほらっ、元気な男の子です!」助産師さんが赤ちゃんを抱きかかえ、分娩台の上にいる産婦さんに見せながらそう告げた。赤ちゃんが小さな身体で命いっぱい泣いている。産婦さんは赤ちゃんを見て、荒い呼吸を整えながら、言葉で表せないくらいのしあわせな顔で笑った。分娩室のスタッフ全員が喜んでいる。
・・・赤ちゃんて、なんてこんなに愛されているんだろう。産婦さん、さっきまで、あんなに苦しそうだったのに。私はとっさにそう思っていた。初めて出産に付き添わせていただいた看護学生の私。私もこんなにお母さんに愛されて生まれたんだ。お母さん、こんなに痛い思いして私を産んだんだ。理屈じゃない。本当にそう分かった。うれしくて、ありがたくて、感動しちゃって、産婦さんの隣で泣きそうで、でも泣くなんて変だよなって、必死に涙をこらえた。生まれてくるってなんて幸せなんだろう、なんて愛されてるんだろう。さっきまで苦しくて、苦しくて大変だった産婦さんがあんなに笑顔になるなんて。・・・結局私は泣いてしまった。本当に嬉しくて。私もこんなに愛されてたのかってわかって。きっと産婦さんは産むまでだってずっと大変だったはずなのに、産む時も痛かったはずなのに、そんなのどってことないみたいに笑顔になって、いのちが与えられるってなんて素敵なんだろうって思った。これが、愛されてるってことなのかな・・・ってわかった。ものすごく、心があっつくなった。
それから、病棟でのお昼休みに私は高校の頃のことを思い出していた。高校生の時、私はひどい子だったと思う。「勝手に産んどいて何!?私は生まれたくなんてなかったよ!!」・・・あのころ、私は反抗期の真っ最中だった。勉強に、友人関係に、家庭の問題に、とても傷ついているときだった。大好きなお母さんだからこそ、わかってくれるからこそ、きつくあたってしまってた。・・・なんてひどいことしてたんだろう。とっさにお母さんに謝りたくなった。ごめんね、お母さん。ありがとうね。
実は、お母さんは私が高校卒業する前に病気で亡くなってしまった。あんまり急で、まさか亡くなるなんて思ってもみなかったから、私はごめんねもありがとうもちゃんと言えなかった。でも、最後にお母さんが私に言った言葉をしっかり覚えてる。お見舞いに行ったとき「あえてよかったー」って、一言、笑顔で言ってくれた。私が生まれたときから「あえてよかったー」って思って、ずっとそうして育ててくれてたんだなって、わかった。あんなに痛い思いして生み出してくれた産婦さんを見て、わかった。
きっと、私がひどい子だったから、神様はわざと私を看護学生にさせたんだなって思う。今、ほんとにお母さんに感謝している。神様、天国のお母さんに伝えてください。まずは、ごめんなさい、と。それから、今とってもしあわせです。私がお腹にいる時、私を産む時、きっと痛かったよね。高校生の時もいっぱいひどいことしちゃったし。でも、私はお母さんの子でよかった。今ね、生きててよかったなってほんとに思う。お母さん、産んでくれて育ててくれてありがとう。私、いい看護師になる!生きてるとつらい時だってあるけど、それよりもっといいことあるってほんとに伝えられる看護師になる。お母さんが一生懸命産んだいのちを大切にしてって伝えられる看護師になるから。
・・・生まれたばかりの赤ちゃんは本当に小さい。そして、かよわい。そんな赤ちゃんをお母さんが笑顔で見守っている。元気な子に育ってね、心からそう願いながら母子の姿を見て、私はしあわせな気分にひたってます。この大切ないのちを、大切に扱える看護師なることを思いながら。