【第5回】
~ 赤ちゃんと笑顔 ~
特別賞
お風呂タイム
【一般部門】 林 文子 神奈川県 主婦 30歳
初めての育児の中で一番大変だったのは、娘を一人でお風呂に入れることだった。
子供が生まれて2ヵ月半がたった頃、夫の帰宅を待ってお風呂に入れると、娘の就寝時間が遅くなることを理由に、私が娘を内風呂に入れることになった。まだ首も座らない娘を私の腕力でちゃんと支えられるのだろうかと緊張と不安でいっぱいだった上、お風呂は夫がやってくれるなどとたかをくくっていたため、心の準備もない。こればっかりはお世話が日常化してからも決して気の抜ける仕事ではなかった。
赤ちゃんを一人でお風呂に入れることは本当に壮絶。自分がゆっくりお風呂に入れないことはもちろん、ちょうど真冬の時期だったこともあり娘に風邪をひかさずに、手際よくこなさなくてはならない。夕刻、娘がわりと落ち着いているときを見計らって、よーいどん!でまず自分がお風呂に入る。温まることもそこそこに、ムスメを迎えに居間へ行き、服を脱がせて浴室へ。全身洗って温まったら、タオルで包んでまた暖かい居間へ運び、全身拭いて着替えさせる。これだけでもなかなかの大仕事だったが、たそがれ泣きが始まってからは、一人で寝かせておいて自分だけ先に温まろうなんぞ、当然娘が許してはくれず、お風呂準備の遊び時間が追加された。
顔を近づけたり遠ざけたりしながら「べろべろばー」を繰り返し、娘のぐずり顔がゴキゲン顔になり、笑顔を見せてくれるまで根気よくあやす。いつの間にかあやすことに必死になりながら、機嫌を見計らって自分のお風呂の準備へと一枚、二枚服を脱ぐ。どうやら娘は顔の動きより手の動きに興味があるらしい。じゃあ、手の「いないいないばー」だっ!とやっているうちに、ふっと気がついた・・・。
「あれ?もしかして私、裸踊りしてる・・・?」
子育てに裸踊りが含まれていたとは! どの育児書にも載っていない秘策。
自分のことは二の次のこの時間、私は家の中で裸族の舞。ひたすら踊ったかと思えば、ばったばったと裸のまま浴室と居間を行き来する。槍を持ったり”あわわわ~”なんて奇声を発したりはしないものの、1分1秒を争うかのように懸命なお風呂レースは決して人には見せられない。それでもケタケタ声を上げて笑う娘に逢いたくて、機嫌よく入浴し、少し頬を赤らめた娘のほんわかした熱り顔を見たくて、恥を掻き捨て毎日やってしまう自分もいたりして。娘との貴重なお風呂タイムは、大変ながらも母としての至福の時間となった。
現在娘は9ヶ月。苦労の甲斐あって、私とのお風呂タイムを期待以上に好きになってくれた。もう新生児の時のように行ったりきたりしなくても一緒にお風呂に入ることができる月齢である。“ほのちゃん、ほのちゃん、ママとおっふろ♪”と歌いながら服を脱がせると、するりと私の腕を抜け、嬉しそうに裸んぼでハイハイする。今度は娘の舞を見られる日も近いだろうと思いながら、まだ四つんばいの小さな裸族を追いかける我が家のお風呂タイムは相変わらずにぎやかだ。
そして今日も日暮れとともに裸族の時間がやってくる・・・。あわわわわわ~・・・。