【第5回】
~ 赤ちゃんと笑顔 ~
大賞
おいしいかおってどんな顔?
【一般部門】141票 濱田さわ子 広島県 公務員 31歳
娘が生後六ヶ月を迎え、離乳食を始めることにした。実を言うと、離乳食って何だか大変そうで、自信がなかった私。
周りの意見も、「あまり急いで始めない方がいいよ」「うちはもうモリモリ食べるよ!」など色々分かれており、焦る気持ちと迷う気持ちが混じって、なかなかふんぎりがつかなかったゴールデンウイークの始め。大学時代の友人のうちに遊びに行ったことが、離乳食を始めるきっかけとなった。
娘より半年早く生まれた友人の子供は、もう何でもパクパク食べていた。その友人と私は、学生時代いつも一緒にいたのだけれど、子供を持って彼女はすっかりおかあさんの顔になっていた。私の知らない顔だった。
子供を愛おしそうに見つめる彼女の横顔、色んな食材を使って離乳食を作る彼女の後ろ姿。大学時代、将来の夢も恋の話も彼女としてきた。バカ笑いして、時には真面目な話もして、朝の海を見ながらちょっと涙ぐんだりして、彼女との思い出は、瓶にいっぱい詰まったビーズのようにいっぱいあって、どれもがきらきらしている。
そんな彼女がもうすっかりおかあさんなんだ……しみじみして、そのあと、ハッとした。
私も、自分の娘にこういう顔をしているかしら。慌ただしく、追いまくられるような日々だけれど、娘をもっと、ずっと幸せな顔で見つめていたい。娘にも、もっと、ずっと幸せな笑顔でいてほしい。
とりあえず、私は娘に食べる楽しみを与えてやらなくちゃ。
彼女の離乳食づくりを見て俄然やる気になった私は、家に帰ると早速お粥を作った。
「まほちゃん、ごはんだよ~」
と言いながら娘の顔を見ても、きょとんとしている。喉に詰まらせないかな、ちゃんと消化するかな、いや何より食べてくれるかしら…はじめの一口は、ほんとうにドキドキした。
スプーンに一匙すくって、おそるおそる口に運ぶと、意外なくらいすんなりと口にし、ごくんと飲み込んだのがわかった。
食べた~!嬉しくて、娘の顔を見ると、なんだか神妙な顔をしている。おいしくなかったのかな、初めての食べ物だから、味わうことなんてできないかも…と思いつつも、
「まほちゃん、おいしい?」
と尋ねた瞬間、今でも忘れられないけれど、娘は顔中でニコッと笑った。目なんかなくなって、まだ歯も生えてない歯茎を全開にして、極上の笑顔を見せてくれた。
私は母親だから、いつも娘の笑顔は見ているけれど、この笑顔はいつもと違った。昔みたCMの、「おいしいかおってどんな顔?」というフレーズが頭に浮かび、ああ……こういう顔なんだなあ……とじーんとしてしまった。私がしていることは、単に食事を与えているんじゃない、愛情も一緒に与えているんだということに、ようやく気がついた。
私は乳があまり出なかったので、最初から混合で与えており、その後も早ばやとミルクに切り替えてしまっていたので、子どもの「食」を自分が作っているという実感を強く得たのはこれが初めてだった。私が作ったこの離乳食が子どもの命をつないでいくんだ…そう考えると、責任の重さが急に感じられた。それと同時に、これから、どんなおいしいものを食べさせよう!とむくむく意欲が湧いてきた。あんなに気がかりだった離乳食づくりが、この日から楽しみになったんだから、子どもの笑顔ってつくづくすごい。
この日、結局娘はペロリとお粥を平らげ、その後もまったく嫌がることなく、何でも食べる。
それから5カ月が経ち、私のレパートリーも、娘の好物も、だいぶ増えた。今でも、「おいしい?」と尋ねると、満面の笑みを見せてくれる。たまには、べえという顔もするんだけど……。
これからもいっぱい食べて、いっぱい遊んで、いっぱい笑って大きくなっていって欲しい。私は母親として、それを見守り、応援していこうと思う。娘の笑顔の傍らで。