持田ヘルスケア株式会社

スキナベーブ エッセイコンテスト

【第4回】
~ はじめての沐浴 ~

入選

マニュアル人間の母、奮闘する

【一般部門】 兵庫県  主婦  32歳

「あーん、なんでうまくいかないんだろう?だれか助けて~!」この時ほど、融通のきかない自分を情け無く思ったことはない。
私は自他ともに認めるマニュアル人間。今までの人生、マニュアル通りに動いていればさほど困ることにも遭遇しなかった。そんな私に突然初めての沐浴がやってきた。いつも沐浴を担当してくれているパパが、出張で家をあけることになったのだ。
「本当にひとりでできる?」「大丈夫、私にまかせてよ。おっぱいとかオムツとか、毎日ちゃんとお世話をしてるでしょ。大丈夫だってば」こんなやり取りを数回繰り返し、私は不安そうなパパを笑顔で送り出した。
私はママ歴2週間だったが、じつは一度も琴音を沐浴させたことがなかった。しかし、できるという変な自信があった。産院で沐浴実習を受けた(正確には見た)し、沐浴手順が書いてあるプリントももらった。それに何より琴音はお風呂好きだったから、いつもパパがやっているようにすればきっと大丈夫だと安易に考えていたのだ。
「さあ、やるぞ~」私は沐浴のプリントを広げ手順を確認した。着替えOK、部屋の温度はバッチリ。湯温計もピッタリ40℃を指している。ご機嫌そうな琴音の服を脱がせ、沐浴布をお腹にのせた彼女を、両手で抱きかかえた。赤ちゃんの、うらやましいくらいスベスベした肌が気持ちいい。そしてそっとお湯の中へ入れた……まではよかった。お湯の浮力で変に軽くなった彼女が、いつもとはまったく別の不安定な生き物に早変わりしてしまったのである。
左手で琴音の両耳をふさごうとするが、できない!手を放したら、このままお湯の中へ落としてしまうのではないかという不安が頭をよぎる。でも、やらなくちゃ。「最初から耳をふさいで抱っこすればよかったのかなぁ」琴音をバスタブに浸けたまま、もう一度プリントを見たが、「どうしたら耳がふさげるか」なんて一言も書かれていない。そうこうしているうちに、いつもと様子が違うことに気付いたのか、琴音は思い切り体に力を入れて大声で泣き始めた。もうこうなっては私も焦るばかり。両手で琴音の体を抱えたまま一歩も動けなくなった。そんな状況に陥っても、「お風呂は毎日入れなくちゃ」と、私は耳をふさぐことを頑張りつづけた。しかし、焦れば焦るほどうまくいかない。琴音の泣き声は大きさを増すばかり。「だれか琴音の体を洗ってよ~!」気付いたら、湯温計は30℃を指していた。
結局その日の沐浴は、琴音の体半分をポチャンとお湯につけたままで終ってしまった。いつもなら、パパの手の中に小さな体を預け、気持良さそうに顔をゆるませる琴音だったが、その日ばかりは始終眉間にシワを寄せていた。母と娘の初めての沐浴、穏やかな光景が繰り広げられる予定だったが、現実はそうはいかなかった。
次の日、お土産を片手に帰ってきたパパの介添えで、私は再び沐浴にチャレンジした。昨日よりもドキドキした。私の手の中で、琴音が初めて顔をゆるませる。「あぁ、見たかったのはこの顔だ」私は思わずパパを見た。おもしろいくらい琴音と同じ顔をしていた。きっと私も同じ顔だったにちがいない。
あれから5年近くがたち、琴音も今では幼稚園の年中さん。お風呂の時は、私の手助けをいやがり自分の体は自分で洗えるようになった。子どもの成長は本当に早い。心身ともに確実に育っている。一方、当の私はといえば今日も育児本とにらめっこ。「ふんふん、なるほど。こうやって子どもをしかればいいのか~」あの時あれほど自分自身を情け無く思ったはずなのに、まったくの成長ぶりがうかがえない。相変わらずのマニュアル人間、健在である。

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