持田ヘルスケア株式会社

スキナベーブ エッセイコンテスト

【第4回】
~ はじめての沐浴 ~

入選

「う」の字の陽だまり

【一般部門】 神奈川県  主婦  28歳

初めての出産はお正月が明けてすぐだった。一年の中で最も寒い時期と言っても過言ではないくらい、寒さの厳しい折だった。2650gで生まれた小さな娘を、退院後初めて沐浴させたのは、私の父だった。
私が生まれたときも、弟が生まれたときも、沐浴はずっと父の仕事だったらしい。母も、父にまかせておけば大丈夫よ、と常々私に言っていた。初孫の退院に備えて、父は寒いお風呂場ではなく、リビングで沐浴させるために、必要以上に大きいビニールシートをまず用意していたらしい。そして、お湯を運ぶための新品の大きなバケツ。さらに、万が一お湯が熱かったときのために、水道から水をひくための新品のホース。すべてが新品で、すべてが必要以上に大きかった。
私には張り切る父がほほえましくて、うずうずしている主人にちょっと我慢してもらった。
さて、着替えも用意し、湯冷ましもOK。いざ本番である。母、主人と私に見守られる中、父が恐々と娘の耳を押さえ、湯にそっとつける。娘は一瞬びくっとする。私たちギャラリーもびくっ。余裕の父・・・のはずが、「おおっ!おお~~」意味不明の声。明らかに腰がひけている。「耳に水が・・・」「耳に泡が・・・」「あ、ガーゼが・・・」「あ、泣きそう・・・」キャリア豊富のはずの父が弱気な言葉を次々に口にする。そのたびに一番ひやひやしているのは主人だ。そして思わず手が出ているのは母だった。父と母は非常に手際悪く、あたふたしながら娘の生まれたばかりの肌をきれいにしようとしている。主人は、育児書と一度っきりの父親学級での沐浴の仕方の知識を、おそらく頭の中で反芻しながら見ているらしく、妙に落ち着かない。
非常ににぎやかに沐浴がすすんでいる中、当の娘は、だんだん気持ちよくなってきたのか、口を「う」という形にすぼめ、目を閉じて静かにしている。娘の肌が、なんともいえないきれいなピンク色に染まっている。
「気持ちいいみたいよ!お父さん、よかったね!」私が父に声をかける。ふと気がついたら、父と母、そして主人はさっきよりずっとベビーバスに近寄っている。温かいリビングの真ん中、やたらと広いビニールシートの上の白いベビーバス。その周りで、三人の大人と小さな小さな赤ちゃんが、みんなで口を「う」の形にして初めての沐浴を楽しんでいた。
真新しい、柔らかいバスタオルを手にして、その光景を見つめていると、少し滑稽でもあり、そしてまた、そこだけが春のひだまりみたいに温かい光に包まれているようだった。

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