持田ヘルスケア株式会社

スキナベーブ エッセイコンテスト

【第4回】
~ はじめての沐浴 ~

入選

親バカを自覚した日

【一般部門】 東京都  主婦  30歳

「湯温よーし、石鹸よーし、沐浴布よーし、着替えよーし」
一つずつ指さし点呼確認する。いよいよ退院して初めて私が娘を沐浴させる時が来たのだ。普段入れてくれる主人は残業で遅くなるという。ここはママの頑張りどころだ。初めての妊娠、出産。解らない事だらけで、育児雑誌を買い漁り、産後のお世話の仕方を一生懸命勉強した。オムツの替え方、ミルクの作り方、服の着せ方、沐浴の仕方。特に沐浴の仕方は洗う順番をノートにまとめなおして、何度も頭の中でシュミレーションした。主人が洗うのも毎日毎日側で見ていた。ばっちりだ、ばっちりな筈である。一つ気がかりな事といえば、娘は沐浴すると必ず泣く。泣きっぱなしである。いやいやいやと泣き続け、そして暴れる。主人が沐浴に慣れていなくてぎこちないから不安で泣くのかと言えば、それも違う。病院で看護士さんや、私の母が手際よく洗ってくれている間ですら、彼女は泣きっぱなしだったから。でも、私はどこかで思っていた。
-やっぱりママじゃないからよね。普段ママが抱っこすればぴたりと泣きやむもんね-
だから、私が洗えば泣くわけがないと。そうたかをくくっていたのだ。
「お風呂の時間だよ」
洋服を脱がせ、左手で首の後ろを支え、耳にお湯が入らないように押さえる。安心するように体に沐浴布もかける。3キロの娘は軽い筈なのに重い。普段おっぱいで抱っこする時よりも重く感じる。右手を添えてそうっと足からベビーバスにおろす。
「さぁ、お風呂入ろうねー」
私がにっこり笑顔で娘に告げたその瞬間。
「ふぎゃあああああん」娘はやっぱり泣き出した。しかしここで躊躇していると湯音は下がり、娘は風邪をひいてしまう。
「顔を洗うよー」ガーゼハンカチで優しく優しく拭こうとするけれど、泣きながら抵抗される。ママの自負は打ち砕かれてしまう。木っ端微塵だ。娘は泣いている。主人が入れている時よりもぎこちなさが不安なのか声だって大きい。私も泣きたい。雑誌の赤ちゃんはうっとり顔であった。何をしても泣いて暴れるなんて書いてなかった。
もう9月も終わりだと言うのに、私の額にはじっとりとした汗が浮かんでいる。
「背中を洗うよー」
そう言いながらなかなか体を返せない。首がすわってなくてふにゃふにゃのくたんくたんの娘。一体この娘のどこにこんな力があるのかと言うほどじたばたしている。手が小さめの私、娘が暴れる度に落としそうな気がしてたまらない。気ばかりが焦り、時間がどんどん過ぎていく。
私は諦めた。
-いい、一日洗わなくたって大丈夫-
風邪をひいてしまうより全然ましである。かけ湯をしてベビーバスからあげる。すると娘はぴたりと泣きやんだ。なんとまあ現金な事だろう。ぐったりとしながら、ちょっと湯冷め気味の娘に服を着せる。おっぱいをやりながら、娘の顔を見ていたら、ちょっと嬉しくなった。
-こんな小さいうちからきっちり自己主張するなんて。家の子ってしっかりしてる?おまけに嫌な事から解放されたらすぐに泣きやむし。気持の切り替えの上手な子なんだわ、きっと-
自分を親バカだと認識した瞬間でもあった。
家の子ったら偉い、すごい。親バカだけど、娘の性格が少し解った気がして嬉しかったのだ。さっきまでの泣きそうな気持や疲労感は吹き飛んでいた。
あれからもうすぐ二年。娘は、あの時予想した通り、自己主張はきっちりするでも聞き分けのよい子になってくれている。今は頭からシャワーをかけてもへいちゃらだ。きっと冬に産まれる妹の良いお姉さんになってくれるに違いない。またあのベビーバスで沐浴させる事になるけれど。今度は大丈夫。しっかりもののお姉さんが沐浴のお手伝いを、もしかしたら大泣きする妹をあやす役を張り切ってしてくれるに違いない。

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