【第4回】
~ はじめての沐浴 ~
優秀賞
やっと、はいれたね
【看護師助産師部門】135票 野呂修子 青森県 助産師 39歳
和生は、ほかの子どもより少しはやく、そしてかなり小さく、私の元へやってきてくれました。助産師として働いていたときも、そんなにお目にかかることはなかったほどでした。和生を妊娠したときは、「大きなお腹を抱えて、あれこれしよう」「お産は助産所で、夫と一緒に産もう」とたくさんの夢と希望をもっていました。ところが、妊娠生活も折り返しになるころから、子どもが小さいことがわかりました。破裂しそうになるだろうお腹を抱えることを夢見ていたのになかなかお腹は大きくならず、もちろん、このころすでに助産所で産む希望も絶たれました。
それでも、和生はわたしたちのところにやってきてくれました。自分で、きちんと苦しいから出してほしいと意思表示をし、29週に660グラムで誕生しました。夫は、このとき、友達へ「大きな希望を抱いて待望の子どもが誕生しました」と知らせてくれたようです。
当然のことながら、沐浴などできるわけなどなく、保育器で過ごすのが精一杯でした。看護師さんたちは、一生懸命ケアをしてくれていました。あまりに小さい子どもだったので自分でケアしたいともいえず、ただただ見つめて、触れることしかできませんでした。
そんな日々が続いたある日、和生は急変し、大学病院へ移ることになりました。大学病院では、ICU以外にいるところはなく、さらに、突然に保育器からだされインファントウォーマーに移されました。でも、それが和生を直接に間近でみた最初のときになりました。最初のキスをしたのもこのときです。そして、看護師さんは言ってくれました。「一緒に赤ちゃんのお世話をしましょう」。こうして、私は初めて和生への清拭をしました。涙で目が曇りそうになりながらも、和生に触れているこのときがとても貴重で尊いものでした。幸い和生はまもなく、危機を脱し、再びその日のうちに保育器に戻れることになりました。
その後、保育器での生活は4か月続き、やっと1500グラムを超え、保育器からベッドに移れる日がきました。待ちに待った日でした。「最初の沐浴は私にさせてほしい」と前々から願い出ていたこともあり、実現できる日がやっとやってきました。
沐浴は、助産師である私にとって、やり慣れた日常のケアのひとつでした。生まれたばかりの大切な何人もの赤ちゃんにも行っていました。どの赤ちゃんも大切に接してきていたつもりです。でも、その日の沐浴は、私にとっては特別なことでした。和生が生まれてから半年が経っており、やっと自分の手に抱き、初めてのお風呂です。どきどきはしませんでしたが、愛おしい気持ちでいっぱいで、自分の手で沐浴できることにこれほど感謝した日はありませんでした。そして、今まで、ただ大切に接してきたとは違う思いになりました。どの子も、親にとっては愛おしく、その子を私たち助産師にあずけていたと思うと、助産師という仕事に、もっと真摯にならなければと思った日でもありました。助産師であったからこそ、そして、小さく生まれたからこそ、子どもにとって初めての沐浴を自分の手で行えました。
自分の子どもに初めての沐浴が行えたことは、とても貴重なことだったのではないかと今しみじみ感じます。あの日の気持ちよさそうな和生の顔、のびのびとお湯の中で全身を伸ばしている姿。沐浴は親子双方にとって幸せを実感できるときです。その初めてのときを経験できたことを感謝しています。
和生は、少し早く、小さく生まれてきてくれましたが、それだからこそ経験できたことがたくさんあります。そのひとつが、親である自分の手で行った初めての沐浴でした。
今、和生が元気でいることにそして、あのときに沐浴できたことに感謝して……。