【第3回】
~ 赤ちゃんのいる風景 ~
入選
三回目のお産によせて・・
【一般部門】 女性 35歳
赤ちゃんを産んだ女性なら一人一人違ったいろんな体験があるのだろうな・・三回目のお産の後、分娩室のベッドの上でそう思っていた。
私にはすでに二人の男の子がいる。明け方、破水して入院してからも「三人目だから」と、周囲の誰もお産の間中付き添ってはくれなかった。(三回目でもお産は大仕事なのよ!)と不安で押し潰されそうだった。里帰り出産に選んだのは長男の時と同じ、市立の病院だ。その時の助産師さんがとても印象が良かったのだ。何が良かったかというと、その人の持つオーラというか、醸し出す雰囲気が産婦と赤ちゃんにとってとても安心できる感じの人なのだ。年齢は40代前半という所だろうか。でもその時にならないとどの助産師さんになるかわからない。(あの助産婦さんまだいるかなあ?六年も経ってるし、もういないかも?)周りを見回してもその人らしい姿はない。どうしよう。無事産めるだろうか。その時、とても優しい声が聞こえた。
「前田さん、今回のお産の担当になったMです。よろしくね。いいお産にしましょう!」
その人は長男の時と同じあの助産師さんだった。私は一気に元気が出て、一人だけどこの助産師さんとなら大丈夫!と思った。
六年の間に益々ベテランになられたMさんは、的確なサポートで上手にお産を進めて下さった。相変わらず独特のオーラに満ち溢れている。陣痛は次第に強くなっていき、腰も割れる様に痛み出した。Mさんはいつも側にいるわけではないけれど、とても辛い時にはさっときて痛みが和らぐ場所を押してくれる。時間がくれば助産師さんが交代してしまうので、何とかMさんの時に産みたいと頑張った。
「おめでとうございます!」
無事産まれた赤ちゃんは、またまた男の子!我が家の三男の誕生だ。女の子を欲しがっていた夫の残念がる様子が一瞬浮かんだものの、Mさんに取り上げてもらえてとても嬉しかった。後始末をして下さるMさんにその気持ちを伝えると、心から喜んで下さった。産まれたばかりのわが子は夫にそっくりで、何だかとても幸せな気分だ。Mさんは、胎盤の重さの測り方を看護学生の人に教えている様子だ。忙しい合間、笑顔で私の状態を何度も見てくれる。私には産まれたばかりの赤ちゃんとMさんは、同じオーラで包まれているように見えた。分娩室がとても気高い神聖な空気でいっぱいになったのを感じた。
私は三回のお産を経験させてもらったけれど、赤ちゃんが産まれた直後のこの感じがとても好きだ。お産に関わる人はやはり赤ちゃん好きなのだろうか、次々といろんな看護師さんや学生さん達がやってきて赤ちゃんに話し掛けたりしてくれる。中には検診の時に一回だけお世話になった方もいる。年配の看護師さんが、「私は女の子三人いるの。三人目ってほんとに可愛いわよ!」と言って下さったりして、喜びもひとしおだ。きっと悲しいお産も沢山見てきた方たちだからこそ、無事この世に生まれてきた命の尊さを知っているのだろうなあと思った。
世の中にいるすべての赤ちゃんの数だけ、女性たちのお産の体験がある。当たり前だけどすごい事だ!そしてそのお手伝いを職業にして毎日頑張っている人達もすごいと思う。お産は何度経験しても怖いものだ。女の人は命がけで新しい命を産みだすのだから・・。きっと、温かくて優しくて、芯の強さを持った人でなければお産に関わることは難しいに違いないと思う。
今息子たちは九歳、六歳、三歳となり、私は育児に追われている毎日だ。少しずつ赤ちゃんらしさの抜けていく三男を見ると、また赤ちゃんを産みたくなってしまう。ちなみに、夫は三男を一目見た時からメロメロになって可愛がっている。あんなに女の子が欲しい!と言っていたのが嘘のように・・。