持田ヘルスケア株式会社

スキナベーブ エッセイコンテスト

【第3回】
~ 赤ちゃんのいる風景 ~

入選

あかちゃん社会

【一般部門】 女性  29歳

「あーちゃん、かーいー」
自分専用の椅子を台にして、ベビーベッドに横たわる妹を一所懸命なでようとするお姉ちゃん。紙オムツでちょっと重たげなお尻を振りながら歩くのが特徴的で、1歳半を過ぎ喃語から単語に移りつつあるところに、生後3ヶ月の妹が入園してきた。
この保育園は山間の人口5千人に満たないのどかな町の中心にある。共働きの両親や、家庭の事情、同年代のお友達を作らせたい親御さんの意向で、乳児から就学前の6歳児までが通う。乳児から2歳までの子どもたちは同じお部屋ですごしている。
気紛れでやんちゃなお姉ちゃんが、妹の入園でおとなしくなった。幼いながらに姉であることを意識してか、保育士の隙を見てはベビーベッドに近寄り、妹に触れようとする。おやつ時には、離乳食もままならない妹にも大好きなお菓子を分けたがる。
同じ部屋ですごす他の2歳の子どもたちは、髪の毛もポヤポヤさせながらハイハイや伝い歩きをする子たちを「赤ちゃん」と呼ぶ。あなたたちも、そんな時を経て今歩いているのだよ、と心の中でつぶやきながら微笑んでしまう。ちょっと大きくなったお兄ちゃんお姉ちゃんたちは、小さな赤ちゃんたちがかわいくてたまらなく、手を洗ってあげたり、抱っこしようとしたり。抱き上げたら思いのほか重くって、まるでプロレス技をかけているかのような姿勢のまま、二人で真っ赤な顔をして耐えていることもある。でも、お兄ちゃんの意地で、必死に抱きしめ、締め上げてしまうから、最後は二人とも苦しくて泣き出すことも。危ない行為だけれども、こんな小さなお兄ちゃんの精一杯の愛情表現は、生物には生まれながら、小さきものへの愛情が備わっているのだと、生命が孕む感情の機微の優しさに畏敬の念さえ抱かせる。
そんな小さなお兄ちゃんお姉ちゃんも、年長組の園児たちには「赤ちゃん」と呼ばれている。二本足で立って走って、お遊戯や片付けも上手にでき、はっきりと話すことができるようになった5~6歳の園児にとっては、チョコチョコとおぼつかない足で歩き、数少ない単語で話そうとする三頭身ほどの子どもたちは、みな「赤ちゃん」だ。上には上がいる。手ごわい。お迎え前の自由遊びの時間、保育園全体でのお兄ちゃんお姉ちゃんは、本当によく赤ちゃんたちと遊んでくれる。母親の真似なのか大人ぶって世話を焼きたがるおしゃまなお姉ちゃんや、年頃の娘への接し方がわからない父親のように遠巻きに見ているお兄ちゃんなど、すでに性差が出ていることにも驚く。
あれから15ヶ月。面倒見の良い6歳児達は小学生となり、ポヤポヤ頭の赤ちゃん達は、自在に歩き回り、高くて澄んだ声で単語を発し、頭にリボンを揺らすまでになっていた。3歳になったお兄ちゃん赤ちゃんやお姉ちゃん赤ちゃん達は、「危ないから上がっちゃダメ」と言われていた2階のお部屋に移り、時折、1階にいる「赤ちゃん達」に会いに来る。かつて私をてこずらせつつも、心いっぱい愛情を触れ合わせた子ども達。三つ子の魂云々と言うが、ちょっと悪知恵のついた3歳児達は、その成長に感動している私を見るなり「おかーさーん」。同伴していた夫には、「おとーさーん」。困惑する私達をからかうかのように、部屋中の子ども達が連呼。この子達にすれば、親御さんの年代なのは事実だけれど、新婚の私達にはそれなりにショックだ。でも、子どもは正直で、もう赤ちゃんではない、ということを改めて認識。
「子ども達が安心して遊べる空間を」との願いで作られた保育園で、今日も、子ども達はここが全空間かのように生き生きと遊び、お友達同士様々な関係を演じ合ってすごしているだろう。赤ちゃん達には赤ちゃん達の社会がある。いつか出会う私の赤ちゃんも、あんな赤ちゃん社会を経験して育っていってほしいな。

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