【第3回】
~ 赤ちゃんのいる風景 ~
入選
やさしさを運んで
【一般部門】 女性 29歳
この子が産まれてからあっという間の半年だったなあ・・・と、やっと最近になって今までの日々を振り返る余裕が出てきた。2月に産まれた我が子はすくすくと成長してもうすぐ六ヶ月になる。寝返りからずりばいをするようになって、すきがあれば部屋の隅のゴミ箱をなめていたり、目覚まし時計をいじっていたりと目が離せない。その反面よく笑うようになってかわいさ倍増、かわいくてかわいくてぷくぷくのほっぺやクリームパンのようなおててにキスをしてしまう。大泣きされたり、お風呂で暴れたりされると疲れることもあるけど、なんて赤ちゃんってかわいいんだろう・・と再確認する日々である。
新米ママだった自分にもやっと余裕(覚悟?)が出てきたせいか、最近ひしひしと身に沁みて感じることがある。それは自分の周りの人々のあたたかい気持ちだ。
だっこひもで近所にお散歩へでかければ、毎日と言っていいほど
「まあ!かわいい赤ちゃんねー」
と、いろんな人から声をかけられる。ひとりで買い物していた頃には絶対なかったことだ。毎日子供とふたりっきりで家の中にいるので、赤ちゃんをきっかけにおしゃべりができるのはうれしい事だし、うちの子もほめられているのがわかるのかニッコリしてうれしそうだ。
お散歩中に出会ったおじいさんは
「子供は国の宝、みんなの宝物だよ。大切にね」
と言ってくれた。
ちょっとした買い物だと赤ちゃんの事を話すうちにレジ係の方がさりげなく袋につめてくれる。
電車に乗れば、「いまどきの若者」といわれるようなお兄さんが席を譲ってくれたりする。この前は電車の中で女性に「何ヶ月ですか?」と話しかけられ30分も話し込んでしまった。
子連れで中華のお店に入った時は寡黙そうなおじさんが、さりげなく子供用のお茶碗とスプーン・フォークを出してくれた。
最近行き始めた児童館でも先生達がとても気遣ってくれる。
・・・とあげていけばきりがない位、たくさんの人に良くしてもらっている毎日なのだ。
そんな時ふと思う。
「きっとこの子がみんなのやさしさを運んで来てくれたんだな」と。何を信じればいいかわからないような世界だけどこの子がいるだけで、世の中がこんなにあたたかく感じられるようになった。この子のおかげで全く違う景色を見る事ができた。それだけでも感謝しなければ、と強く思う。
もうちょっと子育てをがんばって、もうちょっとだけ余裕が出来たら、みんなにもらったやさしさを私が返して行きたいと思っている。