持田ヘルスケア株式会社

スキナベーブ エッセイコンテスト

【第3回】
~ 赤ちゃんのいる風景 ~

入選

ゆびきりげんまん

【一般部門】 女性  36歳

うららへ
3年前の秋、ママはうららがこの世に生まれてくることをまだ知らなかったの。パパと結婚したばかりで、少しお仕事しながら、新しい生活に一生懸命だった。あっという間に季節がめぐってゆくようで、何だか急ぎ足になっていたのね。
いつもうららとお散歩している公園のいちょう並木が黄色のトンネルになって、そして、黄色い絨毯のような落ち葉もいっぱいの頃だった。公園の入り口から、ずうっと下を向いてぽつぽつ歩いている若いお兄さんがいたの。少し風も冷たくなってきたし、寒いのかなぁ、それとも何かいやなことがあったのかなぁと思いながら、ママはそのお兄さんの背中を見て、少し後ろを歩いていたの。そして、いちょう並木に着いて、お兄さんはベンチに腰掛けたの。ずうっと下を向いたまま…。急いでいたママなのに、何となく気になって、少しその様子を眺めていたのね。
ふと離れたところを見たら、よちよち歩きの赤ちゃんが、黄色い絨毯になった落ち葉を小さな手で掬い上げては、かさかさと下に落としていたの。何度も、何度も…。黄色いトンネルが赤ちゃんを明るく照らしているようで、きらきらと輝いて見えたわ。しばらくママは見とれていたの。あっと思い出して、あのお兄さんのほうを見たら、お兄さんも赤ちゃんに見とれていたの。そしたら、みるみるうちにお兄さんの表情が明るくなって、目もきらきらと輝いてきて…。次の瞬間、お兄さんは元気に立ち上がって、駅のほうへすたすた歩いていったのよ。ママ、スキップしているのかと思ったくらいに…。
赤ちゃんの無邪気な姿に勇気づけられたお兄さんと、遊びつづける赤ちゃん。ママも、素敵な秋を見つけて、うれしくてスキップしそうだった。そして、思ったの。ママにもし赤ちゃんが生まれたら、この黄色い絨毯の上で思いっきりあそばせてやりたいって。
そして次の秋に、うららが生まれてくるとわかって…うれしかったよ、ママ。暑い夏に大きいお腹を抱えて、いっぱい公園をお散歩しながら、生まれてくるうららと約束したの。「この青々と茂った葉っぱがみーんな黄色に染まったら、一緒に来ようね。びっくりするほどきれいで、びっくりするほど楽しいよ。それでね、みんなが元気になるのよ。」って。
へその緒が長くて、出てくるのにちょっと時間がかかったけど、元気に生まれてきてくれたね。そして去年の秋、1歳になったうららは、まだあんよはできなかったけど、大きないちょうの木につかまって「いないいないばあ」をしたね。黄色い葉っぱをいっぱいつかんで投げてみたり、バギーの椅子の上にいっぱいいっぱい大事に積みあげたりしたね。知らないおばさんに、葉っぱを「どうぞ」したね。そして、パパにお土産にしたくておうちまで葉っぱを握りしめていたね。きっとお腹の中で、こんなこともしたいなぁ、あんなこともしてみるよ、ってママよりずっと素敵な約束をたくさんしてくれていたのね。うらら、ありがとう。
北風さんが葉っぱをみんな連れていっちゃったけど、また赤ちゃん葉っぱが出てきて、一生懸命大きくなって、ほうら、今は緑の大きな葉っぱがいっぱいでしょ。秋になれば、きれいな黄色い葉っぱになって、うららを待っていてくれるのよ。元気に大きくなろうね。大きないちょうの木さんに「大きくなったね、あんよが上手になって、もう走れるね。ほんとに元気だなぁ。」ってほめてもらえるようにね。それからそれから、「笑った顔がかわいいよ。」って言ってもらおうね。ママもニコニコ顔でイチョウの木さんに会うわよ。「ママも笑った顔がきれいだね。」って言ってもらいたいもの。いちょうの木さんと、うららと、ママの約束ね。ゆびきりげんまん。
ママより

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