【第3回】
~ 赤ちゃんのいる風景 ~
特別賞
赤ちゃんパワー
【一般部門】 草間景子 東京都 主婦 27歳
2002年2月、私は第1子を妊娠した。正直、これからどんな未来が待っているのかなど、全く想像できなかった。
『私の赤ちゃんに会える・・・』漠然と抱いていた期待と、授かった幸せをゆっくりと噛みしめる間もなく、つわりが始まった。
しかも重度のつわりであった。例えるならば、万年船酔い。
悪夢の2ヶ月をなんとか乗り越え安定期。そして長かったマタニティライフに終止符を打つ、運命の出産。
『生死をさまよう』なんて聞いていたウワサ通りの大仕事であった。
決して安産だったとは言えないかもしれない。
2002年11月、出産。我が子に会えた時、私の中に強烈な感動が走った。
出産した人ならば、誰もが抱くであろうこの感動。でもその時私は、世の中の誰よりも誰よりも、絶対一番幸せ!!だと思えた。
いくら最高の瞬間ではあってもやはり身体はクタクタ、病室に戻ったとたん、眠りに落ちると思っていた。
しかし興奮から覚めることができない。
現実把握と感動の回想に、私は一睡もできないでいた。さすがに我が身が心配になり、明け方になってナースコールで相談をした。
『全く眠れないのですが・・・』
『お薬出しましょうか?』
『お願いします。』ごく普通のやりとりにホッと一安心。部屋で待つようにと言われた。すると5分後逆にナースコールが。
『赤ちゃんに会いにナースステーションまで遊びに来ませんか?』とのこと。(遊びに?寝たいのに?)疑問を抱きながらも母子別室だった私は、赤ちゃんに会える!という思いから
『伺います!』と即答していた。時間は明け方4時。いつもの授乳室で5分ほど待たされて、ミルクを飲んだばかりでご機嫌だった私の赤ちゃんをハイどーぞ!と抱かせてくれた。
産後すぐのフラフラした記憶で見た我が子とはまた違う可愛さだった。ハッキリと開いた目。まるでほほえんでいるかのように私の目を見つめてくれた。
(かわいい!かわいい!)何度も心でそうつぶやいて、
そして涙がポロポロ溢れ出した。母親となったことにジワジワと実感が沸いた。約20分ほど遊ばせてもらうと、『ではお部屋に戻りましょうか』と助産婦さんが言う。
『え?あれ?私ココに何をしに来たんだろう?寝たいとお願いしたハズのに・・・。何か勘違いされてしまっているのカナ?』でも楽しかったそのひとときにとても満足していたので
御礼を言って部屋に戻った。ベッドに横になり本を開いた。(かえって興奮しちゃった気がするなぁ。眠れるワケないヨ。)
そう思いながら本をめくった次の瞬間、フワッとした優しい眠気に包まれて、即座に眠りに落ちた。短時間ながら、ギュッと深く暖かくとても心地の良い眠りであった。
翌朝一番で昨夜の助産婦さんが部屋へ様子を見にきてれた。
『どうでしたか?眠れましたか?』
『ええ、それがあの後グッスリ・・・』
『スゴイでしょ!赤ちゃんパワーよ!』
その一言にあ然とした。感激した。プロだ!と思った。
その時の私にとって赤ちゃんが何よりの精神安定剤だったのである。
そして何よりも、出会って間もない我が子と私との間に、深い深い絆が
早くも確立していたことに心から感動した。
赤ちゃんパワー・・・わずか2954gの小さな赤ちゃんがくれた偉大なパワー。
私の中で漠然としていた『出産体験』は宝物となっていた。
晴輝。晴れ晴れと輝かしい人生を送って欲しい。そんな願いを込めて
命名した。今では8ヶ月になり、元気にすくすく育っている。
晴輝にもらったあの『赤ちゃんパワー』と同じくらい大きく暖かいパワーを
母親である私からもいつかプレゼントしたいと思う。