【第14回】
~ 赤ちゃんとの出会い ~
入選
神様お願い
大阪府 主婦 女性 60歳
「早く孫が生まれますように!」
と私が叫んだのは、旅先で訪れた、とあるパワースポットだった。
昔、神との交信の場であったその一角に立ち、大きな声で願い事をすると叶うという。
私の息子と娘は無事に人生の伴侶に出会い、結婚して数年経っていたが子供にはまだ恵まれていなかった。今は30歳を過ぎての初産が珍しくない時代なので、私も多少の不安はあったものの、孫が可愛いという実感がなく、そのうち生まれるだろうと楽観していた。
しかし、私とは正反対に、「もう孫を抱く事はないのか・・」と早々と悲観的になりつつある夫の為に、これはいい機会だと「早く孫が生まれますように!」とお願いしたのだ。
そうして神様にお願いしてから数ヶ月経ったある日、娘から妊娠の知らせがあった。
「よかったよかった!」と喜ぶ半面、娘より年上の嫁の胸の内を思い、複雑な心境になっていた。段々大きくなっていくお腹と共に母の顔になっていく娘を見る嫁が、いじらしくてならない。でもこればかりは隠す訳にもいかず、時々ご飯を食べにおいでと皆で集まっていたのを止める訳にもいかない。また気に掛けているのを悟らせても傷つける。自然に受け入れてもらうしかないのだ。それにしても赤ちゃんが生まれ、成長する姿をみんなで心から喜んで愛しんでいけるだろうか。そんな不安を胸に、努めてさりげなく何でもないように娘の出産を待った。
でもやはり、人の誕生は何物にも勝り、人の心を高揚させる。
娘は順調なお産の末に、無事元気な男の子を出産した。真っ赤な顔をして泣いている小さな赤ちゃんは私の孫なのだ。私の手編みの靴下もぽろっと脱げるくらい小さい足。
ようこそようこそ、じいちゃんがお待ちかねですよ。
息子夫婦も赤ちゃんに会いにやってきた。辛いだろうけど祝福してやってね・・という思いで息をのんでいた私の耳に入ってきたのは、思いもかけず息子夫婦の妊娠の報告だった。「えぇーっ?!」と驚きと喜びが押し寄せて感極まる。幸運にも、私が悶々と抱えていた心配事はあっけなく見事に打ち砕かれたのだった。
心の片隅で、いや大半でこれはもしかして神の仕業?と思わずにはいられなかった。
たちまち私たち夫婦は二人の孫に恵まれ、祖父母の世界に足を踏み入れた。生まれたての赤ちゃんの小ささは、驚きだ。特に沐浴させている時の背中などはよくこの体で生きているものだと感心するくらい弱々しい。そうしてあの甘い匂い。元気よく手足をばたつかせ、泣き声を上げる様。自分のものではないという一抹の寂しさと、気楽さ、愛らしさが交差する。人生には孫の誕生というこんなお楽しみも用意されていたのだ。
孫が10ヶ月の時に娘は仕事に復帰した。早くから保育園に入れるのが、私は身を切られるように辛く、風邪をもらってきては再々熱を出す孫と、毎日時間に追われている娘を見ると可愛そうでならない。国や市からの子育て支援もあり、昔より随分恵まれていると思うが、子供を預けて働く女性が多くなった。これが女性の社会進出というものかと考えてしまう。とにかく、結婚、出産、育児が私の時代とはすっかり様変わりしたのだ。
愛おしいものは増えると増えた数だけ、喜びも悲しみも心配事も増える。
今、休日になると孫達がやって来る。我が家はにわか託児所になり、あれもこれもと勢い込んで、私はくたくたになるが、じいちゃんは毎週でも孫に会いたいらしい。それにしても私の神通力はすごいのでは?ちなみに孫を欲しがっていた夫の願いは「日本が早く復興しますように!」だった。こちらも早く叶いますように神様よろしくお願いいたします。