持田ヘルスケア株式会社

スキナベーブ エッセイコンテスト

【第14回】
~ 赤ちゃんとの出会い ~

入選

教えてくれて、ありがとう

三重県  自営  女性  39歳

「お風呂から出るときは、お風呂の小窓を開けておいてって言ったじゃん」「食べ終わった食器は水につけておいてよ。何度もお願いしているじゃん」とこわい形相で夫に怒る私。
「あれ、やっていなかったっけ。まあ、いいじゃん」とのんびりとした返事をする夫。
私はいつもキチキチ、イライラ。そして結婚八年目にして待望の女の赤ちゃんを授かった。よーし、睡眠時間を削ってでも家事に仕事にそして育児をがんばろうと意気込んだ。
育児書や、先輩ママのアドバイスにしたがって、赤ちゃんのお世話に力を注いだ。授乳は三時間おきに、沐浴は夕方四時頃までにと時間配分を考えて。もちろん今まで通りの家事や自営業手伝いの仕事もしっかりこなした。とにかく、何でも完璧にやらないと落ち着かなかった。
肩に力が入りっぱなしの生活を送り、赤ちゃんが生後二ヶ月になったころ、テレビがつけっぱなしになっていたという些細なことで夫に注意をした。すると、
「いい加減にしろよ、そんな小さなことどうでもいいじゃないか。」と夫が怒りだした。
「だって、テレビの音で赤ちゃんが起きちゃうじゃん、だから言ってるの」
「いちいちお前みたいに細かくやっていたら、子供がかわいそうだよ。自分の家なのにのんびりできないんだよ」と言い残し夫は部屋を出て行った。
私は体中の血が一気に逆流するような感じがした。こんなに一生懸命やっているのに何がいけないの、と私の気持ちは高ぶるばかり。
そんなとき、寝ていたはずの娘が私の顔を見てにっこり笑っていることにふと気が付いた。すると興奮した気持ちがおさまり、大粒の涙がボロボロ出てきて、そのまま何も気にせず大泣きしてしまった。
涙がとまると今度は心がすーっと楽になってきた。張りつめていた気持ちがじわーっと解けていく感じ。あれ、私って次に何をしようとしていたんだっけ。思い出せなかった。
そして笑っていた娘はまた眠っていた。私も自然と娘の横で眠ってしまった。
その夜は家事も仕事も休み、娘を膝にのせてのんびりと過ごした。穏やかな顔をしている私を見て帰宅した夫も喜んでいた。
それにしても、赤ちゃんが笑っているのを見ただけで問題が解決してしまうのって不思議だ。夫と分かりあえた訳でもないのに。
その後も、私が雑用に追われてイライラしているときに、娘が私を見て笑っていることが何度かあった。そしてその都度、家事なんてまあいいか、という気持ちになった。
この出来事を妹に話してみた。
「お姉ちゃん、覚えていないかな。うちのお母さんがさ、お父さんが出張で家にいないと家事をさぼっていたじゃん。夕飯が卵かけごはんで終わりとか。でもお母さんが私たちと一緒にのんびりとテレビを見て笑っているだけで楽しかったよね。いつもはこわい顔で家の事をしているのにさ」
確かにそうだった。お母さんがニコニコしてゆったりしていると私もうれしかった。
「赤ちゃんも、ニコニコ機嫌の良いお母さんが一番好きなんだよ。だから自分がにっこり笑うことでお母さんにそれを伝えようとしているんじゃないのかな」
何気ない妹との会話だったが心に響いた。
私って家族の為と思ってやっていた家事や育児で勝手にイライラして、逆に不快な思いを家族にさせていたのだ。そしてそのことを私に教えるために、娘が微笑んでいたなんて。
埃や髪の毛が落ちていても、カレーライスが二日続いてしまっても、たいしたことないよね。ほどほどに家事や育児をしながら、うちの中でニコニコしているお母さんが好きだよね。
「大切なことを教えてくれてありがとう。これからは楽しい時間を一緒に過ごそうね」とまだ言葉を話せない娘に言いたくなった。

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