【第14回】
~ 赤ちゃんとの出会い ~
入選
いえいえ、楽しんでます!
高知県 公務員 女性 34歳
「あ、ついてますね~」
「え~!!」
医師のサラッとした一言で、三人目の赤ちゃんも、男の子だと確定しました。
これで最後の赤ちゃんと決めていた三人目、私の娘を持つという淡い夢が消えました。
「生まれてみたら、女の子っていうことはない…よねえ…」
男の子のシンボルがばっちり映っている超音波の写真を見ながら、思わずため息をつきました。
三人目を作ろうと決めたとき、男の子三人になることも覚悟していたはずなのに、なかなか気持ちが切り替わらず、未練たらたらな私。性別なんて関係なく大切なわが子なのに、ついがっかりしてしまう。そんな自分が嫌で、お腹の赤ちゃんに申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、妊娠後期を過ごしました。
そして、迎えた出産の日。予定日より一週間早く、満月で大潮の日の夜に陣痛が始まりました。
「助産院に行くよ!」
夫と手伝いに来てくれた義母と子どもたちを連れて、三年前、次男を産んだのと同じ助産院に向かいました。できれば、子どもたちを出産に立ち会わせたいと思っていました。
「…イタタタ」
「その顔はまだまだ余裕やね。まだしばらくかかりそう」
三人目だからひょっとしてスピード出産かな、と期待していたのですが、そう甘くはありませんでした。二十三時を回って、興奮していた長男と次男が寝静まったあと、義母も眠り、子どもたちを寝かしつけるのに疲れていた夫に眠っていいよ、と声をかけました。けれど、夫は何も言わず、私に寄り添ってくれて、陣痛の度に腰をさすってくれました。
「痛い!痛い!!」
「もう少しだ、がんばれ!」
「…おぎゃ、おぎゃあ!」
二時近くに元気な男の子が生まれるまで、夫は私を支えてくれました。三男は、ピンク色のきれいな赤ちゃんでした。
「あかちゃん、ないてる!」
生まれる直前に目を覚ました次男が、泣き声を聞いて、きょとんとしながら言いました。三年前、ここで産声を上げた彼が、同じ場所でお兄ちゃんになったのです。
「この助産院で産めるのは、宝くじに当たるようなものっていう人もいるよ」
笑いながら助産師さんが言いました。助産院で出産するためには色々な条件があり、病院での様々な検査も全てパスしなければいけません。一度無事に出産出来たからといって、二度目も出来るとは限らないのです。今回の出産は三男から私たち家族へのプレゼントのように思えました。
「はい、お母さんだよ~」
ベッドの隣に寝かされた生まれたばかりの三男に、愛おしさがこみ上げました。ピンク色のぷっくりとした頬に、立派な福耳。ほわほわっと生えた髪の毛。次男の生まれた時とそっくりです。
「これからよろしくね…」
起こしても起きなかった長男を含めて、家族全員の寝息の聞こえる部屋で休みながら、私は、充実感で満たされました。
翌朝、何事もなかったかのように、目を覚ました長男。
「あー、よく寝たよ、お母さん」
「お兄ちゃん、赤ちゃん生まれたよ」
「えっ!」
長男は私のベッドに駆け寄ってきました。私の隣に寝かされている三男を見つけて、長男は心から嬉しそうに笑いました。
「うわあ!かわいい~!!」
(・・・ああ、いい笑顔!!)
この時の長男の笑顔を忘れることは、出来ないと思います。
私はバカでした。支えてくれる夫がいて、宝のような三人の息子たちに恵まれたのに、女の子が欲しかったという思いを引きずっていたなんて。自分が手にしている幸せが分からず、手に入らないものにこだわっていたのです。
「あらまあ、お腹の赤ちゃんも男の子なの。大変ねえ」と言われる度に苦笑いしながら「はーい、がんばります」と答えていたのですが、赤ちゃんを見つめる長男の笑顔で、スッと肩の力が抜けました。
なんだ、頑張る必要なんてない。楽しめばいいんだ。こんなにかわいいんだもの。
今度から、「大変だね」と言われても、笑顔で答えようと思います。
「いえいえ、楽しんでます!」