持田ヘルスケア株式会社

スキナベーブ エッセイコンテスト

【第14回】
~ 赤ちゃんとの出会い ~

優秀賞

お母さんと赤ちゃん

131票 宮川リエ 東京都  会社員  49歳

「私の赤ちゃんがどうしてこんな障害を持って生まれてきちゃったのかしら。身内には誰もこんな病気を持っている人はいないのに。」
私の顔をみるなり、涙を浮かべながら呟いた年若いお母さんがいた。
私は先天性の心臓疾患がありその手術の為に長期入院をしていた。先天性心臓疾患の専門機関であったので、生まれてくる子供、お母さんそのどちらかが心臓に悩みを抱えている人が多く入院していた。病棟の一角にガラス張りの新生児室があり掌にのるくらいの小さな赤ちゃん達がいた。
鼻からのチューブ、大人の指よりも細い腕に沢山の点滴をしているのをみると涙が出て仕方がなく足早に通り過ぎていた。
ある時、ふと見ると看護師さんが赤ちゃんの足の裏をくすぐっている。何をしているのかと思い看護婦さんにたずねると、
「まだお腹の中にいると思って時々息をするのを忘れちゃうんです。」と言う。
びっくりして「忘れちゃうんですか?」と聞くと、
「そうなんです。やんちゃな子、おとなしい子、性格がそれぞれで可愛いですよ。」と微笑みながら答えてくれた。
その日から新生児室の前にある椅子に座り、赤ちゃんの様子を眺めることが日課になった。鼻のチューブが気持ち悪いのだろう、一生懸命手で押しのけて取ってしまう子。足の裏をくすぐられると「ハッ」っとして息をしだす子。看護師さんがどんなにシートをかけても足を起用に動かしクチュクチュと押しのけてしまう子、タオルで身体を拭いてもらうと「本当に気持ちいい」と伸びをして目を細めている子、、。どの赤ちゃんも元気で明るく一生懸命に生きていた。
日々眺めているだけでその赤ちゃんの性格までわかるようになるから不思議だ。
「またやんちゃしてるな。」「今日はご機嫌かな」と一人ひとりの赤ちゃんの様子を毎日見に行くので、看護師さんからは「赤ちゃんパトロールのお姉さん」と呼ばれだした。
そんなある日だった。
悲しそうな顔をして赤ちゃんをのぞきこみ、ふと私の顔を見るとどこにも言えなかった気持ちがあふれたかのように呟いた。
どんな病気なのかと聞くと全く私と同じ疾患だった。「私と一緒だね。」と言うと、目を見開いて顔を見た。心臓が出来上がるまでの仕組み、赤ちゃんの時にわかって良かったこと、今手術して対応しておけばこれから先の生活に問題はないこと、気づかないだけで結構多くの人がその疾患を持っていること、そして誰のせいでもないことをゆっくりと顔を見ながら話した。
「誰のせいでもない?」と何度も聞くので、「そう、誰のせいでもない。それに貴女の赤ちゃんはとてもやんちゃで元気いっぱいだよ。」と毎日見ている様子について話すと、「小さくて怖くてどうしていいかわからなくて悲しくて、ちゃんと見ることができませんでした。」と涙をこぼした。
「お腹の中で大切に育てていたのにって思っちゃうよね。自分が悪いって思ってしまうよね。でも誰も悪くない。貴女は一生懸命頑張ったんだから。可愛いよ。貴女の赤ちゃん。大丈夫。」
お母さんはギュッと私の手を握って声をあげて泣いた。
数日後、お母さんとお義母さんが一緒に私の病室を訪ねてきてくれた。お母さんが先に退院するという。
赤ちゃんパトロールに出向き、お母さんの赤ちゃんに言った。
「あなたのお母さん素敵な人だよ。」と。

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