【第13回】
~ 赤ちゃんとのふれあい ~
入選
ショウゴくんに教わったこと
大阪府 会社員 男性 24歳
私は4年前から、子育て支援の仕事で、ベビーマッサージの講師をしている。
ベビーマッサージは、赤ちゃんと親のふれあいを目的に、絵本や音楽を使かいながらおこなうものである。
そこでは赤ちゃんだけでなく、親の個性も大きくあらわれる。いろんな親子と出会えて、とても楽しい仕事であった。
ショウゴくんと出会ったのは、まだ私が講師を始めて間もないころだった。
「ショウゴくんは大人しいですね。育てやすいでしょう。」
マッサージ講習会の終了後、私はお母さんに声をかけた。こうやって子育てについて、お母さんたちと話し合うのも楽しみの1つだった。
「ええ。実はまだ歩けなくて。それにほとんど発語もなくて、心配してるんです。」
確かにショウゴくんは、まだ言葉としての発語はなかった。それにどこかボーっとしていて、笑顔がみられないような印象もあった。
「大丈夫ですよ。発育にはみんな個人差があります。気になさる必要はないですよ。」
私はこの手の悩みに対する常套文句を使った。この言葉でお母さんの気持ちを、少しでも軽くしたいという気持ちからだった。
しかしその後、私はこの言葉を口にしたことを、初めて後悔することになった。
半年後、ショウゴくんは歩くようにはなったが、発語は相変わらずなかった。そして知的障害と診断されたのだ。
「やはり、障害がありました。」
お母さんは涙を流しながら、私にそう報告しにきてくれた。
「そうでしたか。。」
私はそう答えるしかできなかった。
「でも歩けるようにはなったので良かったです。これもマッサージのおかげかもしれません。長い間、お世話になりました。」
お母さんは無理に笑顔を作って、そう言った。私は胸が痛んだ。そして自分の無力さと無責任さに腹がたった。
それからも私は、ベビーマッサージの講師を続けていた。さまざまな赤ちゃんとの出会いは、楽しく、やりがいもあったが、どこかで自信をもてないでいた。
私は偶然、駅前の商店街で、手をつないだショウゴくん親子を見つけた。最後に会ってから3年近くが経っていた。
「ショウゴくん!」
思わず、声を出して追いかけた。ショウゴくんのお母さんは、走ってかけよる私に驚いていた。ショウゴくんはすっかり大きくなっていた。
「その後はどうですか」
おそるおそる私は聞いた。私の言葉にお母さんはニッコリと笑って答えた。
「ショウゴは元気にやっていますよ。近くの幼稚園に入れたんです。園長が障害のある子に、理解のある方で。周りの子ともうまくやれているようです。ね。」
お母さんが、ショウゴくんの顔を見ると、ショウゴくんはコクリとうなずいた。
それからショウゴくんの近況を聞いた。最近はサッカーが好きで、幼稚園の友達と毎日ボールを蹴って遊んでいるらしい。
「それにまだ二人でベビーマッサージしてるんですよ。あの時いただいた絵本とか音楽が大好きみたいで。もうベビーじゃないんですけどね。」
お母さんの言葉に、私は長年のモヤモヤがとれたような気分になった。
今でもたくさんのお母さんに、自分の子の発育が遅いのではないかと相談を受ける。そういう時、私はこのように言っている。
「大丈夫です。発育にはみんな個人差があります。それにどんなことがあっても、その子がその子であることに、変わりはないのですから。」