持田ヘルスケア株式会社

スキナベーブ エッセイコンテスト

【第13回】
~ 赤ちゃんとのふれあい ~

入選

地球の宝もの

石川県  自営  男性  65歳

病院の待合室は、いつも空気が淀んでいて重苦しさを感じます。
ほとんどの人が病気や傷を負っているわけですから、笑顔が少ないのも当然でしょう。
もう十数年も病院の世話になっている私だけでも、待合室で笑ったことなんて一度もなかったように思います。
ところが、待合室で小さな事件に遭遇してから、病院に行くのが楽しみになりました。

大学病院ですから、症状によって待合室も違うのですが、たまたま工事中で産婦人科と内科が同じ待合室を使うことになりました。
私はというと、交通事故の療養中にガンが発見され、それらの治療をしながら抗ガン剤を服用してガンの摘出手術を待つという、ややこしい患者でした。
ようやくガンの手術が終了したとき、担当医から言われた言葉が今でも心に残っています。
「あなたは交通事故で家族を亡くしたり、長い療養生活を送るようになりましたが、もし事故に遭わなかったら、間違いなくガンで命を亡くしていましたよ。ですから、生きていること、生かされていることに感謝しながら日一日を大切に過ごしてくださいね」と。
そんなことがあってから、検診に通う待合室でも、できるだけ患者さんの気持ちをほぐすように努めてきました。
そんなある日です。
赤ちゃんをすっぽりとタオルケットでくるんで順番を待っている若いお母さんと出会いました。
重苦しい雰囲気が漂っていましたので、私自身の療養生活のことを、少しおどけて話してみることにしました。
すると、その赤ちゃんの頬に褐色の斑点があることを告白してくれたのです。
ちょっと強引過ぎるとは思ったのですが、了解を得てタオルケットをはがしてみると、それはそれはかわいい赤ちゃんが顔を見せてくれました。
私は思わず、お母さんに語りかけていました。
「本当にかわいい赤ちゃんですよ。今の医学は進んでいますから、きっと治りますよ。それより、こんなかわいい赤ちゃんの顔を隠してなんかいたら、赤ちゃんにも神様にも失礼ですよ。神様だって、このお母さんなら大丈夫だと信じて、この赤ちゃんをあなたに授けてくださったのですから」
そう話すと、若いお母さんは「はっ」と気づいたように明るくなり、タオルケットをむしり取るようにして診察室に入って行きました。
それからしばらくして待合室で出会ったとき、赤ちゃんの頬には小さな絆創膏だけが貼られていました。
「あのときは、ほんとうにありがとうございました」
と、頭を下げながら、待合室には似つかわしくない笑顔になった若いお母さんが、
「親戚にも近所の人にも、かわいいでしょうって、自慢しているんですよ」
と、大きな声で話してくれました。

赤ちゃんは、ほんとうにかわいいですね。
交通事故で天国に逝った娘の、懐かしい赤ちゃん時代を思い出して、キュンと胸が熱くなってしまった。
病院に通っていると、たくさんの赤ちゃんを目にしますが、どの赤ちゃんもかわいいです。
一人ひとりが地球の宝ものであり、家族の主人公であることを忘れず、やさしく、あたたかく、すこやかに育ててほしいものだと重います。

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