持田ヘルスケア株式会社

スキナベーブ エッセイコンテスト

【第13回】
~ 赤ちゃんとのふれあい ~

入選

「おうちゃんがな」

岡山県  パート  女性  33歳

「おうちゃんがな、寝返りしたで。」
「ん?あぁ、ホンマやなぁ。ひっくり返してあげないとあかんなぁ。教えてくれてありがとう。」私と長男の間に和やかな空気が流れていく。仲直りはいつもこんな感じだった。
次男が生まれて3か月後。夫は単身赴任となり、子どもたちと私だけの生活が始まった。長男は2歳10か月。保育園は(産後2か月のみ登園可能という自治体の規定により)退園となり、イヤイヤ期に赤ちゃん返りが加わって、日々、私とのバトルが繰り広げられていた。
「朝ごはんにしよう。パン焼けたよ。」「いらん!納豆ごはんが食べたい。」
「お着替えしよう。」「いや!裸がええ。」
「お出かけの前におしっこ行っとこう。」「いや!絶対出ん。」
「おうちゃんは置いといて、公園行きたい!」と大騒ぎをして、「トモがおっぱい飲むからおうちゃんにはあげんといて!」とひっくり返る。何をするにもこんな感じで、私は夜中の授乳による睡眠不足もありイライラして「もう、お母さんは知らん!」と声を荒げることもしばしばだった。長男はシュンとして私たちの間に重苦しい空気が漂う。一人っ子だったら、お父さんも一緒に住めたら、もっと余裕があって、可愛がってあげられるのだろうか…そんな考えが頭をよぎる。
しかしこんな時、次男は自分の出番とばかりに絶妙のタイミングでアクションを起こしてくれるのだった。私たちの視線は次男の方へ向き、私の怒りも長男のイヤイヤも一旦ストップとなる。さっきまでの険悪ムードがほぐれていく。長男はそれを捉えて私に話しかける。
「おうちゃんがな、寝返りしたで。」
「おうちゃんがな、ブリって言ったで。」
「おうちゃんがな、ゲボリンしたで。」
私にもやっとゆったりした気持ちが戻ってくる。怒鳴ってしまって悪かったなぁと思う。けれど私は一旦煮詰まってしまうとなかなか素直になれなくて、自分から話しかけて空気を変えることが出来なかった。この兄弟の連携プレーが我が家をどれだけ明るくしてくれただろう。赤ちゃんの次男もしっかり家族の一員で、みんなの気持ちを和ませるのに一役買ってくれるのだった。
次男を見ていると「今の長男はこんなにイヤイヤばっかりやけど、こんな時期もあったなぁ。この服を着ていたよなぁ。大きくなったんやなぁ。」と温かい気持ちがこみ上げてきた。そして、長男のイヤイヤも「さあ来い!」と元気が湧いてくるのだった。
私は4歳で自分に弟ができた時に「お姉ちゃんやから面倒見といて」と言われることが正直嫌だった記憶がある。遊びを中断されるのが嫌だったし、もっと母に自分の方を向いて欲しかったような気がする。だから長男にはあまり「お兄ちゃん」と言わないようにしよう、まだ小さいのに赤ちゃんのお世話をお願いするのは可愛そう、と思っていた。
しかし、それは少し違ったようだ。確かに嫉妬もあり、満たされなくて複雑な面もあったようだが、長男は赤ちゃんの次男に興味津々で、自分が見た色んなことを私に教えてくれた。私が家事などをしている時に次男が泣き出すと“いないいないばぁ”をしたり、歌を歌ったり、おもちゃを持たせたりと彼なりに努力してくれていた。長男に「ちょっと前まではトモもおうちゃんみたいな赤ちゃんやったのに、お兄ちゃんになったなぁ。」と 言うと何だか恥ずかしそうに笑っていた。そして「可愛いなぁ、おうちゃん。」と頭を撫でていた。赤ちゃんの次男を通して長男の頼もしく優しい一面を見つけることが出来た。
育児は育自とよく言われる。今は次男がイヤイヤ期に差し掛かり手を焼くことが多いけれど、今も夫は単身赴任だけれど、これからも子どもたちからたくさんの元気をもらいながら頑張っていこうと思う。

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