【第13回】
~ 赤ちゃんとのふれあい ~
入選
いつも心で、君を抱く
兵庫県 主婦 女性 27歳
次男を妊娠中の事だ。予定日を一週間後にひかえたある日。保育園が大好きな三歳の長男が突然今日は行きたくないとグズリ出してしまった。
長男には珍しいことだったので、体調が悪いのかもしれないと、念の為休ませたが遊ぼう遊ぼうと、しきりに私を誘って来る。
私の妊娠で不安定になっているのかもしれない。そんな長男が少し不憫で、その日は一日二人で遊ぶことにした。
並んで絵を描き、シャボン玉をする。長男は得意気に画用紙に沢山丸を描き、私がふいたシャボン玉を歓声をあげて走り回って片っ端から壊した。
思えば妊娠中は体調が悪く、こんな風に長男と一日中遊んだのは久しぶりだった。次男が生まれれば、きっと二人の時間なんてなかなかとれないだろう。甘えん坊の長男。弟をいじめたりしないだろうか?寂しいと言って泣きはしないだろうか?何より私自身本当に二人とも子供を育てられるのだろうか?沸き上がる不安をふり払うように、私は長男を思いっきり抱きしめた。
その翌朝、私は破水し夕方には次男が生まれた。長男は子供特有の鋭さで出産が近いことを感じ取っていたのかもしれない。病院に迎う車の中で、ふとそんな事を思った。思い返せば妊娠に気付いていない私に、お腹に赤ちゃんがいると教えてくれたのも長男だった。
病室で初めて次男と対面した長男は、「うわぁ・・・可愛い。」と、つぶやいてひっそり微笑んだ。それは胸に織りなす不安の全てを、ぬぐい去ってくれるかのような光景だった。長男の声に宿った真実の響きに、私は胸が熱くなり涙が頬を伝った。
長男一人だけでもなかなか大変な毎日だった。興奮しやすく、感情をおさえる事が苦手な長男。制止をふりきり道路に飛び出してしまう事も何度もあり、その背を何度顔面蒼白になって追いかけただろう。けれど今日この瞬間のこの光景を思い出せば、どれほど大変なことが起きようとも私はきっとたえぬける。そんな予感が胸を満たした。
あれから一年。やはり子供が増えた分、大変な事は二倍になった。やっと寝かしつけた次男を、長男が大声で起こしてしまうので腹を立てたことも何度もある。
けれど赤ちゃんのいる生活は、やわらかな光を日常になげかけてくれる。
ふっくらとした頬、はちはちとした二の腕、やわらかな髪にミルクの匂い。抱きしめた体はずっしりと重く、その体温の高さは命のぬくもりそのものだ。
私が次男を抱けば、長男は自分も抱いて欲しいとせがんで怒る。けれど私は次男を抱きながら、いつも心の中で長男の事も抱きしめているのだ。
次男にふれるたび、あざやかによみがえる長男との日々・・・。次男と違ってやせっぽちの小さな赤ちゃんだった。おっぱいが大好きでいつも私の胸に顔をうずめていた。大きくなってからも食が細く、何かと心配の種が尽きない長男・・・。
全く正反対の二人が仲良く身を寄せ合う姿を見るのが、今の私の一番の幸せだ。寝ても覚めてもいつだって、心で私は彼らを抱きしめている・・・。