持田ヘルスケア株式会社

スキナベーブ エッセイコンテスト

【第13回】
~ 赤ちゃんとのふれあい ~

特別賞

はじめてのママへ。大丈夫と伝えたい。

神田ひとみ 愛知県  パート  43歳

当時の私は、疲れ切っていた。
朝7時に家を出て、日付が変わる頃やっと帰宅する激務の夫。
半年前に転勤ではじめてやって来た見知らぬ土地、
実家は遠く友達もいない。
家には私と赤ちゃんの2人だけ。そして赤ちゃんは、
いつもいつも泣いていた…。
おっぱい、おむつ替え、おっぱい、おむつ替え、
抱っこ、抱っこ、またおむつ。
そうじ、洗濯、買い物、食事の支度。
一人で何もかもをこなし、あっと言う間に夕方を迎えると、
私の気持ちも太陽とともに暗く沈んでくる。
「沐浴させる時間だわ…」
テレビドラマやCMを見ていると、ベビーバスの中で
キャッキャと楽しそうに笑う赤ちゃんと、
その笑顔を見ながらニコニコと体を洗っているお母さんが
よく出てくる。そんな映像を見るたび、
私は思わず涙ぐんでしまう。
「どうしてうちの子は、お風呂を嫌がるの…」
暑いの?寒いの?怖いの?お水が嫌いなの?
色々な事を考えながら、温度を変えたり向きを変えたり、
せっけんのブランドまで変えてみた。
それでも赤ちゃんの号泣がやむ気配はなく、毎日毎日、
ひどく泣かれて自分も泣きながら小さいからだを洗っていた。
苦しい。どうしたらいいのかわからない。出口が見えない…。
お風呂から上がり、まだ泣きわめく赤ちゃんをタオルに
くるんだまま、私はぼうぜんと床に座っていた。
するとインターホンが鳴った。
私はぼうっとした頭のまま、玄関を開けた。
マンション上階の方だった。
「ずいぶん泣いてるようだけど、」不機嫌な顔で言われ、とっさに
「すみませんごめんなさい。うるさいですよねご迷惑ですよね。
私が悪いんですごめんなさい」
一気にそう言ってしまうと、そのまま自分もまた声を上げて泣いてしまった。
その方はいっけん怖そうなおばさまだったのだが、
泣きじゃくる私を見てちょっと驚いた様子をし、
次ににっこりとほほ笑んで、
「あらまあ、お母さんまでいっしょになって泣いてちゃ
だめじゃないのよ。ちょっと上がらせて、赤ちゃん久し振りだわ、抱っこさせて」
と言うと、ゆらゆら抱っこしてあやし始めた。
「まあまあ小さいお口でちゅねぇ、そんなに泣いたら
ママ困っちゃうわよお」
知らない人に抱っこされて一瞬きょとんとした赤ちゃんも、
ゆらゆらが気持ちいいのかじきスヤスヤと眠ってしまった。
私はおばさまに何度も頭を下げ、
「すみません…」を繰り返すのみだった。すると、
「あんたさあ、そんなにあやまらなくってもいいのよ。
赤んぼなんてね、どうしたって泣くときゃ泣くもんよ。
あたしぐらいの年になると、赤んぼの泣き声なんて
鳥がピーチク言ってるぐらいのもんだしさ。
あ、そうか、あたしが文句言いに来たと思った。
違うわよお。あんまり泣くからさあ、
どっかケガでもしたのかと思ってねえ。
おばさんヒマだからさ、ときどき家つれてらっしゃいよ。
家の中じいさんしかいないし、赤ちゃんなんて大歓迎よ」
私はひたすら、泣いた。でも苦しい涙ではなく、安堵の涙。
私は一人じゃない…。
それからはちょくちょくおばさまの家にお邪魔させてもらい、
おじさまもとてもお優しい方で親切にしてもらった。
気が付くと、いつも泣きっぱなしだった赤ちゃんが
よく笑うようになり、話しかければうれしそうに
手足をばたつかせる。
そしてお風呂で泣く事もなくなっていた。
息子たちが高校生と大学生になった今、私は託児センターのような所で、ボランティアスタッフとして小さいお子さんをお預かりしています。今度は私が若いお母さんを助けてあげる番。それが私を救ってくれたおばさまへの、一番の恩返しになると信じています。

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