【第13回】
~ 赤ちゃんとのふれあい ~
佳作
長女の椅子
99票 澤本亜紀 大阪府 主婦 38歳
一人目の妊娠の時もそうだったように、二人目のそれにも、私は敏感に気付く事が出来た。
これは、母親が持つべき第六感なんだろうかと少しばかり興奮したものだ。
私には一切、悪阻というものがなく、ドラマでよく見かけるあの衝撃的瞬間を体験することが出来なかった。
が、ふとした瞬間にそれは波のように押し寄せた。
「あ、赤ちゃんいるかも」と。
二人目の妊娠に気付いたのは、主人と長女との3人で散歩に出かけていた時の事だった。
主人が、漫画のように目を丸くする。
「ええ?本当に?病院で調べたの?」
主人は半信半疑である。
「ううん。そんなん調べんでも分かるやん。赤ちゃん、おるで」
更に信じられないという表情で私の顔を一瞥する。
まぁ、その気持ちも否めない。
なんせ、当時、長女はまだ生後3ヶ月にも満たない赤ちゃんだったのだから。
目に見えてすくすくと成長する長女。
ようやくお座りが出来るようになった頃、同時進行で私のお腹もむくむくと成長し始めた。
当時、私のお決まりポーズは、大きく隆起したお腹の上に、長女のおしりをぽんっと乗せて抱っこするスタイルだった。当時の写真にはそれが沢山収められている。
そんな中、この状態で椅子に座っている写真を発見した。
「縦に3人掛けだな」と思うと、なんだか笑える一枚だ。
そんな私の妊娠なぞ知る由も無い赤ちゃんだった長女にとって、私のお腹は心地よい椅子みたいなものだったと、現在9歳となった次女に伝えて良いものか多少迷う。
予定日からぴったり一週間遅れて生まれてきた長女だったが、次女は予定日の一週間を遥かに越えても生まれてくる気配すらなかった。
お陰で「長女の椅子」は長持ちしていた。
これがなくなってしまうのはいささか寂しい気がするものの、赤ちゃんと赤ちゃんが対面するという瞬間が、私にはこの上なく楽しみでならなかった。
同時期に双子を出産した友人は言った。
「年子って大変なんちゃう?成長も違うし、寝る時間も違うし」
しかし、私は反論した。
「絶対双子の方が大変やって!お乳の時間どうすんのよ?」
二人でお互い「自分の方が楽である」主張をし合ったものだ。
私には大丈夫だという自信があった。身近に素晴らしい先輩がいたからだ。
それは、姑。
彼女もまた子供達(姉弟)を年子で出産した。
長男である主人は姉と六日間同い年になる事を毎年楽しみにしていたという。
そして、同じように、私は年子となる次女を出産した。
二月二十日に一歳の誕生日を迎える長女に対し、十一日間同い年となる二月九日の事だった。
分娩台に横たわって十秒と経たない内の超スピード出産だった。
担当の助産婦さんが間に合わず、初対面の助産婦さんに取り上げてもらうというハプニングはあったが、次女は無事元気な産声を上げた。
「あなた、物凄い安産だったね」
私の名前も知らない助産婦さんが、嬉々として私を覗き込む。
「初産じゃないよね。何人目の赤ちゃん?」
「あ、二人目です。上に女の子がいます」
「あら、そう!第一子は今何歳?」
「・・・・生後、十一ヶ月です・・・」
彼女が目を丸くして微笑んだのを、私は今でも忘れない。
「あら、すごい!じゃ、来年またここで会いましょう」
私は思わず噴き出した。
その日の内に、母と姑が長女を連れて面会に来てくれた。
長女は横に寝かされている次女を少しだけ見た。
ぬいぐるみの類とでも思っているのか、否。
次女の存在よりも母である私が恋しかったのか、彼女は小さな手を私に差し出した。
私はまだまだ赤ちゃんである長女をしっかりと両腕に抱きしめた。
「今日からお姉ちゃんやね。小さなお姉ちゃんやけどな」
彼女の特等席は、もう、ない。