【第13回】
~ 赤ちゃんとのふれあい ~
大賞
義父の涙
212票 坂本亜紀子 埼玉県 会社員 30歳
8月中旬。うだるような暑さの中、息子を出産しました。
里帰り出産の予定だったのですが、計画出産になり、実家に戻らず出産することになったので、主人は仕事を休み初めから立ち会ってくれました。
出産まで7時間。母子ともに健康。安産。
疲れ果ててはいましたが、無事に出産を終えた安堵と、幸福感でいっぱいでした。
産まれたばかりの我が子は、まわりの子より大きく、泣き声も図太かったのですが、親バカ全開、一番かわいいと思いました。駆けつけてくれた妹が号泣するのをみて、主人と3人泣き笑い状態でした。
先生からお子さん健康ですね!とお言葉をいただき、ホッとすると同時にどっと睡魔が襲ってきました。
主人には、続々とお祝いの電話に、メールが届き、九州で報告を待っている私の両親に嬉しそうに電話で報告をしていました。主人の家族も到着し、少しお話しした後、精根尽き果てた私は、お祝いメールは後で見て返事するからと言い残し、いつの間にかそのまま眠ってしまいました。
小一時間寝てしまったのか、目を覚ますと、赤ちゃんが気になって、後陣痛の痛みを抱えよたよたとした足取りで新生児室へ向かいました。
そこには、帰ったと思っていた義父の姿。
産まれたばかりの赤ちゃんを、微笑みながら、ひとり見つめていました。
声をかけようとした時、「孫か・・・」と涙をぬぐっていました。
なんだか声がかけられず、そのまま、私は自分の病室へ戻りました。
口数の少ない義父とは、それまで必要最低限の会話したしたことがありませんでした。
主人も、ちゃんと話したことがないかもしれないと言っていたくらいでしたので、自分の父と比べるとなんとなく話しづらい・・・と感じていました。
結婚の報告をした時も、妊娠の報告をした時も、そうか。と一言だけで、義母が「全くそっけないんだから!ごめんなさいねぇ。」といつもフォローしてくれました。私もひとり息子の結婚、初孫なのだから、嬉しくないわけないとわかっていながらも、自分の父と比べてしまい、義父との温度差に複雑な心境になったのを覚えています。
そんな義父の涙を見たのはもちろんはじめて。実はいまでも誰にも言っていません。
“心配してくれていた。喜んでくれている。”
それがしっかりわかっただけで十分でした。
少し距離を感じていた義父との関係も、息子を通してどんどん近づいたように思います。
「おトイレはじめて成功しましたよ!」「電車とはっきり言いました!」・・・毎日のように息子の写真つきでメールしています。
私自身出産を通して、家族への意識が変わったのもありますが、息子が、家族をつなげて、作ってくれていると感じています。
今では息子も2歳になりました。
息子を連れて遊びに行くと、いつもは寡黙な義父が目じりを下げ、我先にと抱っこし、おもちゃで遊び、散歩へ、公園へと連れて行ってくれます。息子も“じぃーじっ!!”と駆け寄っていき、さらに目じりの下がる義父。
“表情がかわいいなぁ”“しぐさがかわいいなぁ”“頭がいいなぁ!!”・・・と親バカにも負けず劣らずの爺バカ状態です。
我が家から義理の両親宅は、車で片道2時間の距離ですが、息子と二人だけでも、月に一度は必ず顔を出すようにしています。不器用ながらも私たち、そして息子に愛情を注いでくれる義父への私にできる唯一の親孝行だと思っています。