【第12回】
~ 赤ちゃんへの手紙 ~
入選
割れた風船
埼玉県 公務員 女性 39歳
子どもは2人つくろう。
女の子と男の子、どちらも欲しいかな。ここは似て欲しいけれど、これは似て欲しくない。元気で優しくて、お友達と仲良くできて、スポーツが得意で勉強ができて芸術的な才能もあって…。
際限なく大きくふくらみ続けていた、私の「理想の風船」。しかし、実際に生まれたのは男の子が2人。似て欲しくないところに限って似ている。なかなか理想通りにはいかないね、なんてもんじゃない。理想と現実のギャップが大きくなるたびに風船が揺れて重みが増す。私は自分の風船につぶされかけていた。
そして、私の「理想」を決定的に覆す事態が発生した。第三子の妊娠である。まったく予想していなかったことで、ただただとまどうばかりだった。長男は三歳になったとはいえ、まだまだ甘えたい盛り。次男には食物アレルギーがあるとわかった頃で、私は精神的にいっぱいいっぱい。アラフォーの出産に不安もあるし、3人の幼い子どもを抱えて仕事を続けていけるだろうか。妊娠を喜ぶ夫を横目に、一人悶々としていた。
さらに、その後も私の勝手な期待は裏切られ続ける。
3人目こそ女の子に違いない。1人目のときから決めてあった女の子の名前をやっと付けるときがきた。と思いきや、エコーに写ったのは見事に男の子。
上の2人は安産だったし、3人目ともなればさらに楽に産まれてくれるだろう。病院に着く前に産まれちゃったりして。しかし陣痛が強くなりきらず、24時間以上も苦しむ羽目に…。出産後は、子どもの顔を見るなり強烈な眠気に襲われてよく覚えていない。
まったく理想や期待通りにいかなかった三男の妊娠と出産。しかし一番予想と違っていたのは、生まれてきた子が驚くほどかわいかったことだった。とにかく愛おしくて仕方がない。泣いてぐずる姿さえかわいくて、思わず笑ってしまう。そうか、育児とはこんなにも楽しいものだったんだ、と思った。期待通りにいかないことにすっかり慣れて、妙な気負いがなくなっていたのかもしれない。
もし、子どもの人数や性別などを親の思う通りに選べていたとしたら、三男と私の出会いはなかったことになる。このかわいさも、楽しさも、知らずに過ごしてしまったかもしれない。そう思ったとき、自分がいかに傲慢な考えを持っていたかに気付いた。
だいたい、子どもを「つくる」って何だ。子どもは授かるもので、望んで得られるものではなかったはずだ。3人の子どもたちを授かったこと、それはもう、それだけでとてもとても幸せなことだったのだ。巨大な理想の風船が、パチンと割れた。
風船の影がなくなり、足もとを見てみたら、現実に生きている子どもたちのなんとかわいいこと。泣いたり、ケンカしたり、駄々をこねたりしながら毎日精一杯生きている。こんな幸せがすぐ近くにあるのに、私は一体何を望んでいたんだろう。
当たり前のことを見失っていた私のところに、三男がやってきて教えてくれたのだ。えらい、えらいぞ。少し大げさに言えば、キミはお兄ちゃんたちをも救ったんだ。将来威張っていいんだよ。そんなこととは露知らず、今日も兄たちは三男を囲み、ほっぺをつついて遊んでいる。
ウチは狭いから、一人一人の部屋は用意できないし、洋服もお下がりばかり。いろいろガマンしなければならないこともあると思う。でも、お金では買えないもの、一生心の中に残るものをたくさんあげるからね。家族5人で仲良く楽しく暮らしていこうよ。生まれてきてくれて、本当にありがとう。