【第12回】
~ 赤ちゃんへの手紙 ~
入選
リメンバー、沐浴!
千葉県 主婦 女性 53歳
――うーん、こんなにちいさかったかな、赤ちゃんて……。――
これが初孫への初感想。病院の新生児室のガラスのむこうのちいさな命は、そんなばあちゃんのつぶやきなどスッと流してすやすや眠っています。
――うむうむ、よしよし。寝る子は育つ――
娘と孫は無事退院。初めて抱いた孫は、ガラス越しに見ていたよりもよりずっとちいさくて、思った以上に温かかった。次に私が思ったこと。それは「沐浴」。初めて娘を沐浴させたとき、大泣きされて手が震え、落としそうになったあのときの気持ちがよみがえり、産後の娘に代わってできるかな、と不安の黒い雲がモクモク……。
いよいよ「そのとき」がきました。私が不安そうにしていたら娘と孫はもっと不安。そう思って「私ベテランですから」という雰囲気をバチバチ出して臨みました。服を脱がせた時に泣かれ、ドクン、と心臓が大きく波打ちました。
「大丈夫よ。怖くないからね~」
と、孫に話しかけるふりして自分に言い聞かせます。ベビーバスに入れると、あら不思議。泣き止んで気持ちよさそうにゆらゆらお湯に身を任せています。
「さすが、お母さん!」
娘のよいしょに内心の不安を隠しつつ、ふふん、と余裕の会釈。
そのあとは何事もなく手順通りに運び、気持ちよさそうな孫の笑顔で終了。
ばあちゃんに恥をかかせなかった優等生の孫にひたすら感謝しました。
娘が「私にもできるかな」とひとこと。
「できるわよ。できるに決まっているでしょう。慣れよ、慣れ。一度くらい落としてしまっても仕方ない、くらいの気持ちでやりなさい」
――エラソーに! 誰の口から出た言葉ですか?――
もうひとりの自分の声が聞こえます。
はい。おっしっゃるとおりでございます。でも、この小さな子が、私の沐浴トラウマを吹き飛ばしてくれたのです。やってよかった。娘に心の中で謝りました。
――あのとき、あなたを落としそうになって泣かせてごめんなさい。
お母さん、ずっと沐浴が苦手だった――
孫は湯上りのミルクをコクコクとおいしそうに飲んでいます。ももいろの肌がさらに透き通ったようにすべすべしています。そっとちいさな足にふれると思った以上にすべすべでした。
赤ちゃんと接すると「思った以上に」という忘れかけていた感覚がむくむくとわきあがります。
娘のときはしみじみと感じることが出来なかった感情です。
――あの時はいっぱいいっぱいだったもの。――
これからは、孫をしみじみと見させてもらおう。
そして、娘が育児ノイローゼにならないように娘もしみじみと見させてもらおう、と思いました。
命が繋がって、娘が孫を産んでくれたからこのときがある。そうか。そうなんだよね。
ちょっと成長したかな、私。人間って何歳になっても成長を感じることが出来るんですね。これも新発見!
ちいさなあたたかい命はたくさんの感情をプレゼントしてくれました。
ありがとう。
ばあちゃんにおとなしく沐浴させてくれて。
ありがとう。
初心者マークのついたばあちゃんを受け入れてくれて。
孫は大きなゲップで「OK!」と返事してくれました。
(了)