【第12回】
~ 赤ちゃんへの手紙 ~
入選
たくさんの優しさに育まれて
千葉県 会社員 女性 33歳
大好きな貴女へ
貴女が私のお腹に来てから私達の生活は一変しました。
初めての妊娠は少し心配症になってしまったけれど、そんな私達にはお構いなしに、貴女はとっても元気だったね。
生まれる前からお転婆といわれて、生まれてみたらその言葉通りのとにかく元気な女の子でした。
ぎりぎりまで働いて、動き回っていたお母さんの子だからかなぁ。
お母さんはね、貴女が元気でいてくれればそれでいいんだ。
だけどね、覚えていてほしい事もあるよ。
貴女はお腹にいた時から沢山の人の優しさによって育てられていたという事。
電車ではしょっちゅう席を譲ってもらっていたよ。
遠くの席から声をかけてくれる人もいたし、本当はこちらが譲るべき年配の方だっていた。照れながら無言で譲ってくれる学生の子もいたし、並んだ二人の女性が同時に立って顔を見合せて笑っていた事もあった。
そしてね、貴女がお腹にいる時に大地震が起こってね、お母さんは会社にいたんだ。
真後ろの棚が迫ってきて怖かった。けれど周りの人達がお母さんと貴女を守ってくれたんだ。公園に避難してからも常に誰かが居てくれた。そしてお父さんが一時間かけて歩いて迎えに来てくれた。けれど、電車も動いてないし、道路は渋滞、タクシーだって見当たらなくて、駅の喫茶店で途方に暮れていたんだよ。お腹は結構大きかったから、お母さんは体力も尽きてきてぐったりし始めていた。そしたら携帯電話が繋がって、会社の人達が心配して捜しに来てくれて、私達に応接室を貸してくれた。お母さんは横になることができてね、まだまだ寒い3月上旬…衣類も用意してくれて、貴女は皆に守られて休むことができたんだ。
余震に不安になりながらも一夜を過ごした明け方に、なぜか偶然出勤途中のタクシーを捕まえられて、私達は帰ることができた。その日の夜までタクシーの行列は続いていたから、本当に幸運だったんだよ。
いつもと違う様子にお腹の貴女は驚いたのか、激しい胎動が続いたから心配になっていたんだけど、翌日の検査では全く問題なし、って言われて…貴女はとっても元気だった。
貴女の元気な姿を知ると、お母さんも元気になった。
貴女はそうやってたくさんの優しさに救われて、守られて生まれてきたの。
生まれてからも色んな人に声をかけてもらったよね。
貴女が生まれる前まではこんなに道行く人と話す事はなかったし、貴女のおかげで色々な人に優しさをもらったよ。貴女も人が大好きで、覚えたての言葉を必死に発していたよね。拙い貴女のバイバイと笑顔に誰もが笑顔で応えてくれた。
貴女が生まれてからのこの一年は新しい事の連続で、毎日が必死で大変な事もいっぱい!
でもね、何よりも幸せだった。
貴女が寝た後、お父さんと貴女のことを話す時間がお母さんは好きなんだ。
そんな時のお父さんとお母さんはいつも笑っているよ。笑い声でたまに貴女を起こしちゃうくらい。
お父さんとお母さんはたまに喧嘩もしちゃうけど、すると途端に貴女は機嫌が悪くなるから、きっとわかっているんだよね。両手に持ったおもちゃを一つずつ、お父さんとお母さんに渡してくれる。貴女に思いやりを教わるよ。
そしてね、お母さんは何よりも貴女の笑顔が大好きなんだ。
貴女の満開の笑顔!
もうどんな辛い事もどうでもよくなって、また頑張れちゃうよ。
貴女の笑顔のためだったらね、何だって出来ちゃうんだ。
だから、これからもいっぱい笑っていてね。
お母さんも貴女に負けないくらい笑顔で過ごそうと思うから。
これから先、大変な事や辛い事もあると思う。
だけど、覚えていてね、貴女は愛に包まれて生まれてきたの。
たくさんの優しさをもらって育ってきたの。
どんな事があったてお父さんとお母さんは貴女が大好きで、
貴女と笑顔で過ごすために生きていくの。
苦しい時は手を伸ばしてね、お母さんは必ずその手を受け止めるから。
貴女の笑顔は人を幸せにするの。
貴女がここにいる事に心から感謝しています。