持田ヘルスケア株式会社

スキナベーブ エッセイコンテスト

【第11回】
~ 赤ちゃんがくれるチカラ ~

入選

先人の格言

大阪府  会社員  男性  29歳

「家庭を持つことで、一人前の大人として認められるんだ」
こう教授するのは、当時の私の上司であった。その真意は、守るものがあると仕事への取り組み方も、また、社会からの見られ方も変わるということらしい。このような類の「先人の格言」は、何も初めて耳にするものではない。自分より年上の人と接する機会があれば、もれなく、説教と一緒にこういった「先人の格言」もついて来る。
当時の私は、昭和の考えだと、少し軽蔑していた。
『時代や環境によって変わるものだ。自分にその格言が参考になるとは限らない』そう思っていた。そんな私も、今は一児の父である。
まだ、子供が妻のお腹にいる頃、二人で見る最後の夜桜を楽しみながら、家族の未来を話し合った。妻は愛おしそうに、大きなお腹を擦りながら「こういう風にしたい。こんな風に育てたい」と笑顔で話している。私もあいづちを打ちながら想像を膨らませていた。私は育児もしっかりと出来る父親を目指していた。育児に関する書籍を読み、親や先輩の話を聞いていたので、少しは親としての自覚も芽生えているつもりだった。しかし、今だからわかることがある。この頃は、親としての自覚なんて芽生えていなかったのだ。痛感した「先人の格言」は、『親としての自覚の差が喧嘩を引き起こす』である。妻いわく、私の親としての自覚は全然だったらしい。私も今は、そう思う。しかし、なにも痛い経験だけではない。この頃に感じた、確かな感覚がもう一つある。連日の残業続きで、疲れ果てていた時のこと、妻の大きなお腹を見て『頑張らなきゃ』そう思った。すると不思議なことに体の中からエネルギーが湧き出てくるのを感じた。今思うと、これが自分の子供から貰った最初のチカラだった。「先人の格言」でいう、守るものがある、ということなのだろう。
男の子を授かった。妻は劇的に母親となるが、私はまだまだ父親としての自覚が芽生えない。それでも、容赦なく子育て生活は流れていく。長い間慣れ親しんだ、自分中心の生活から一変して、子供中心の生活となる。会社勤めで、家に帰ると子供の世話。夜きちんと寝ることもままならない生活に、付いていくので精一杯な自分。『母は強し』とは、まさにその通りな「先人の格言」である。私は、本能むき出しに我が道を突き進む息子に、四六時中つきっきりで、自分の時間なんて皆無でであろう妻に、ただただ敬服し感謝している。贅沢な仕事の時間を終えて、疲れて帰ってくる私を笑顔で迎えてくれる息子。その息子を抱き上げて、重みを感じながら、頬ずりするのが、私の日課。一日の疲れが吹き飛ぶ瞬間である。息子と一緒に入るお風呂。これも一日の疲れを洗い流す、私の日課である。
最近、会社の上司から「お前も言うようになったな」という言葉を頂戴した。また、社会的マナーを、自然と息子に言い聞かせている自分に驚くこともあった。そんな時に、「先人の格言」を強く感じることができる。時折、妻との会話で「あの言葉。本当その通りよね」とお互いの経験を通して「先人の格言」に敬服している。そして、計り知れない喜びと感動、幸せを与えてくれる我が子の成長を噛みしめながら、夫婦で子育てを楽しんでいる。私は息子の存在が、家族のチカラの源であるように思う。『子は、かすがい』先人たちの素晴らしい格言である。

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