持田ヘルスケア株式会社

スキナベーブ エッセイコンテスト

【第11回】
~ 赤ちゃんがくれるチカラ ~

入選

まごまごして

大分県  無職  男性  60歳

タバコはストレス解消にはもってこい。だから仕事に疲れたら、スパスパと吸うと、元気が出て来る。悩み事があれば一服すれば、少し心が晴れる。
こんなにいいものがやめられるものかと言いつつ生きて来た。
朝は痰が出る。のどがイガイガするが、寝起きると、この一服で解消だ。うん。調子が出てきたようだ。
仕事場に着くまでには、箱半分になっている。午前中には1箱は吸ってしまう。誰にはばかることなく「俺はタバコで肺がんになって、死んでも本望だ。」と言って、女房殿の言葉にも、耳を貸すものじゃない。”俺の人生俺の物”生きたいように生きて、何が悪い。と豪語していたものだが…
娘が妊娠したのがわかり、孫が出来るのが楽しみで、指折り数えるように、待っていたが、出産した後は実家に帰ってくる。
1か月だと言う事なのだが、赤ん坊の前ではタバコはまずいらしい。『これで俺もホタル族』まあ仕方がないかと決心する。
まてよ。俺の部屋は2階だからドアを閉めたらいいんじゃないだろうか。そうだそうだと相槌を1人で打つ。いつも通りでいいんだと、思うと気が楽になって来た。それじゃあ一服と火を付け、
煙の輪を作りながら悦に入っていた。
出産の日が刻々と近づいてくる。「もしかしたら、俺と同じ日になるかもしれんね。」とその可能性がたかくなりつつも、その日は過ぎた。忙しい中での誕生日は忘れられた存在のように思われたが、ケーキがあった。「ローソクが入りきれん。1本でいいやろ。」忙しいから、仕方ないかと祝ってもらう。
誕生日のプレゼントにジッポのライターセット。
「こらいい。風の中でも消えんから、重宝じゃ。ありがとう。」タバコの本数が増えるような予感がした。
2日遅れて孫が誕生。仕事から帰って、早速病院に行く。
顔を見るだけで、ドアを2つも開けておまけにガラス越し。
3人並んでいるけれど、うちの孫が1番ベッピンじゃと心の中で叫ぶ。にこにこしながら、見ているとすぐに面会時間の終了。
また明日と、毎日やってくる。ますます可愛さが、頭もよさそうじゃ。
産後の肥立ちも良く、明日の日曜に退院と言う事になり、受け入れ準備も整った土曜日。
ジッポに火を付けては消し、タバコをくわえては、また箱に入れる。何度となしにくり返して、タバコの箱を机の上に置く。
とうとう観念して、宣言をする。
「タバコを孫がここにいるうちはやめようと思う。」
無理やろうと言う声がしきり。「やるちゅうたらやる。」
そして、迎えに行き、我が家にやってきた姫のために、じいやはタバコをやめていた。あくまでも1か月という期限付き。
泣くのが商売だから、いつも泣く。たまに口がほころぶ。それが何とも言えず可愛い。
1か月が経ち、いよいよ自分の家に帰る時がやってきた。
禁煙ともお別れの時が近づいてくる。
所が何だかこのままやめても、いいような気がしてきた。
40年近く吸ったタバコを孫は泣き声と笑顔でやめさせてしまった。じいやは子供の癒しにまごまごするばかりだった。

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