持田ヘルスケア株式会社

スキナベーブ エッセイコンテスト

【第11回】
~ 赤ちゃんがくれるチカラ ~

入選

赤ちゃんがくれるチカラ

千葉県  保健士  女性  28歳

私は仕事柄、日頃赤ちゃんや子どもと接する機会が多いのですが、実は子どもが苦手、さらに言えば子どものお母さんたちと接することも苦手でした。三人兄弟の末っ子として育った私は、年下の子どもの相手をする機会が少なく、面倒を見てもらうことが多かったということも影響したのかもしれません。この職業としては致命的であり、「向いてないのかも」と思いながら、それでもなんとか仕事を続けてきました。そんな苦手意識を抱えつつ、保健師として働き始めて六年が過ぎました。結婚し、一年も経たないうちに、私に新しい命がやってきてくれました。妊娠を知ったときは驚きと不安があり、「母親になること」にあまり実感がわきませんでした。しかし、産院で初めてエコーの画像を見たとき、気がついたら涙が出ていました。診察に立ち会った夫に目をやると、意外なことに夫も目を潤ませていました。この頃から少しずつ実感するとともに、まだ会ったこともない我が子を「愛しい」と思うようになりました。
つわりの時期には、気持ちが悪くて、なかなか寝付けない日もありました。しかし、不思議なことに仕事をしている間は、あまりつわりを感じず、仕事の専念できました。仕事を終えて車に乗り込んだとたんに気持ちが悪くなるという状態に、私は「赤ちゃんが私のために気遣ってくれているのかな。早くも親孝行だな」と思いました。今思えば、きっと仕事で気が張っていたためでしょうが、その時は自然にそう思えたのです。これも「赤ちゃんのチカラ」でしょうか。胎動も赤ちゃんとの対話に思え、そこにある確かな「命の証」を感じ、私をだんだん「母」にさせてくれた気がします。
出産予定日から四日が過ぎ、参院での受診の日の朝、ついに「おしるし」がありました。産院に向かう車の中、母が私に「こわくないの?」と問いかけましたが、私は不安よりも、やっと赤ちゃんに会える喜びと、「出産」を体験できるワクワクした気持ちが大きかったのです。診察後、そのまま入院になり、夫は千葉からの私の里帰り先の宮城に駆けつけてくれました。だんだん強まる痛みに「いつまで続くんだろう」と不安にもなりました。そして、タイミングを見計らって、やっと分娩室に移動し、夫の立ち会いのもと、ついにその瞬間を迎えました。分娩室に入ってからわずが二十分後のことでした。赤ちゃんの産声や先生方の祝福、夫の労いの言葉に、陣痛の苦しみも忘れました。私はたった今生まれてきた我が子を胸に抱かせてもらうと、「よく頑張って生まれてきたね」と、自然に言葉が出ました。私は無事に生まれてきてくれたことへの感謝と、安堵感と達成感とが入り混じり、幸せな気持ちで胸がいっぱいでした。そばで見守ってくれていた夫も、感動しているのが伝わってきました。夫はガラス越しに赤ちゃんの指の本数を確認したり、写真を撮ったりし、その親ばかぶりに新たな一面を知ることができました。
初めての授乳、初めてのオムツ替え、何もかもがおぼつかない手つきでしたが、我が子を抱き上げると、こんな私でも安心して眠ってくれる姿に勇気付けられました。
一年の育児休暇も終わり、私はまた仕事に復帰しました。同じ職場、同じ仕事……。しかし、そこには確かに以前とは違う気持ちで仕事に臨む私がいます。健診などで子どもたちと会うとかわいいと思え、お母さん方の気持ちに寄り添った考え方もできるようになった気がします。苦手だったことに向き合う勇気をくれたのは、「赤ちゃんがくれたチカラ」だったのだと思います。
今では歩き始め、イタズラ盛りで、つい眉間にシワが寄りそうになる毎日ですが、やっぱり子どもが見せてくれる笑顔には「魔法のようなチカラ」があると思います。そんなチカラをもらい、私は今日も仕事に向かうのです。

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