【第11回】
～ 赤ちゃんがくれるチカラ ～
入選
「3年で辞める」若者の妊娠・出産
愛知県 主婦 女性 29歳
私は以前話題になった「3年で会社を辞める若者」であった。
地方の国立大学を卒業し、営業職として仕事を始めるも、一年足らずで退職。
結婚を理由に、は表向きであり、仕事に嫌気がさし、あきらめたのが真実。
そして結婚と同時に事務職として再就職。大手の会社ということもあり、子供ができても働くつもりではあったが、結婚生活と新しい仕事の両立で精神的に参ってしまい、またまた一年足らずで退職。
「3年で会社を辞める」どころか、1年で会社を辞めてしまった。
それも2社。
そんな私が2社目を退職してすぐ子供を授かった。
まだ自分の人生の方向性も定まらない中での妊娠。
子供は欲しかったが、自分の不完全さから戸惑う。
「こんな私がきちんと育児と向き合えるか?」
「二度と就職できないのではないか?」
いろんな不安が渦巻く中、どんどん子供はおなかの中で成長していく。嬉しさと不安が入り混じる日々。
いつか再就職するなら資格があったほうがよいのでは、と主人が勧めてくれた、日商簿記2級の試験の勉強をつわりと闘いながら始めてみた。
妊娠中、二度試験にチャレンジするも、残念な結果に終わる。
正直プライドはズタズタ。子供が産まれたら勉強の時間などない。なんとなく自暴自棄になりながら臨月を迎えた。
5月の下旬、息子は無事に産まれてきた。
今まで、要領よく、ずる賢く、手抜きに生きてきた自分。
出産の痛み・喜びは自分を少し変えた気がした。
それまでがちがちに凝り固まっていた自分。
無垢な子供の姿はそれをすぐさまほぐしてくれた。
すくすくと育つ息子。
あまりの可愛さ、大変さにしばらくは勉強のことなどすっかり忘れていた。
毎日息子は成長する。おっぱいしか飲まなかった息子はご飯を食べるようになり、笑い、動きまわるようになった。
息子の成長が私を後押しした。
もう一回頑張ってみよう。
息子も毎日頑張って成長している。
私も成長しなきゃ。
息子の昼寝中、息子が夜寝た後、時間を作って勉強を始めた。
子供が出来てからは時間のありがたみがわかり、勉強もはかどった。
そして無事試験に合格した。
いままでいろんなことをあきらめてきた自分。それを乗り越えられた気がした。
息子は2歳を迎えた。
すっかり大きくなり。会話もできるようになった。
せっかく入った会社は一年足らずで辞めてしまったが、育児は逃げることはできない。
迷いながらもなんとか頑張れている気がする。
育児にも慣れてきた今、息子が大きくなったとき、きちんと胸を張っていられるよう、日商簿記1級の試験の勉強を始めた。
私にとってはとても難しい試験だが、きちんと頑張る母の背中をきちんと見てほしいと思う。
そしていつか、1年足らずで辞めることなく、自信を持って働く母の姿を息子に見せられたら、と思う。