【第11回】
~ 赤ちゃんがくれるチカラ ~
優秀賞
「父親になる」ということ
112票 福井識章 兵庫県 会社員 36歳
ねぇ。パパは父親になれたかな?
昨日、部屋を整理していたら、君が生まれたとき、パパが書いていた日記帳を偶然見つけたんだ。平成20年1月10日「しんちゃん生まれました!!」で始まる日記。
しんちゃんが生まれた日は、雲一つない晴天だった。
今日、一緒に動物園に行ったときもお天気だったけど、もっと快晴だったかな。
出産にはパパも立ち会ったんだよ。
フリースタイル分娩だったから、分娩台は使わず、普通のベッドで出産。ママは、お医者さんや助産師さんと和やかに笑いながら、とても明るい雰囲気での出産だった。ガチャガチャした器具やまぶしいライトがなく、自然体。きっと、しんちゃんも新しい世界に期待を膨らませて、「早く出たい」って思っていたんだね。だって、まだ体が半分くらいしか出ていないのに「オギャー」って泣き声を出していたから。お医者さんも「あれ、もう泣いているね。元気な男の子だね~」って驚いていたよ。ママはしんちゃんの顔を見て「かわいい」って言ってた。
パパにも大役が与えられた。へその緒を切らせてもらう。しんちゃんとママをつなぐへその緒は、想像していたよりもずいぶん太く、長かった。1回では切れなかった。ママのお腹の中で、しっかり栄養をもらっていたんだね。2回、3回、ハサミを入れて、ようやく切れた。これからはママの体の中ではなく、この世界での生活が始まる。「元気に育ってね」ってお願いしながら、へその緒を切ったよ。
ママの胸に抱かれてしばらくすると、しんちゃんは「ヘァー、ヘァー」って泣き出した。「どうしたのかな?」って助産師さんが優しくのぞいてみると、ママのお腹の上で、さっそくウンチをしていました。
今日のウンチも、大人みたいにビッグだったけど、オシッコやウンチがちゃんと出るのは、元気な証拠。
お尻をきれいに拭いてもらうと、気持ちよくなったのか、おとなしくママに抱かれていたね。まだ目は見えないだろうけど、かわいい黒目をちょっとのぞかせて、周りをキョロキョロ見ているようだった。
ほっぺがプニプニの新しい家族の誕生に、みんな笑顔だった。
しんちゃんがママと一緒に退院したのは1月15日。
そして、この日で、パパの日記は終わっている…。
いろいろなことがあったんだ。
しんちゃんが生まれたころ、パパの仕事が忙しくて、育児をママとママのご両親に任せっきりにしてしまった。お宮参りとか、初節句とか、しんちゃんの行事ごとのほとんどに積極的に関わろうとしなかった。しんちゃんの1歳の誕生日さえ、パパは仕事に行って、しんちゃんと時間を過ごさなかった。
ごめんね。
子育てって終わりがないし、予期せぬことが次々起こるから、それから逃げるために、わざわざ忙しくしていたのかもしれない。
家族が壊れてしまいそうだった。
そんなとき、ママから言われた。
「父親というのは、単に子どもができたから『父親』というわけではないの。父親として子どもに関わり、夫婦で子どものことを考え、ともに悩み、喜び、心配する、そんな時間を過ごして、はじめて『父親』になるものよ。早く本当の父親になって!」
ママの言葉を聞き、しんちゃんの無垢な寝顔を見て、パパは「変わらなきゃ」って思ったんだ。
今でも、パパは整理整頓が下手だったり、うたた寝してしんちゃんを退屈させてしまったりするけど、確かに「幸せなおうち」になってきたと思う。
バラバラになりそうな家族を、しんちゃんがつなぎとめていてくれたような気がする。
親になる喜びも、家族のもろさや尊さも、しんちゃんが教えてくれた。
かなり時間があいたけど、パパは今日からまた、この日記帳にしんちゃんとママとパパのことを書いていこうと思う。
明日は、しんちゃんが前から行きたいって言っていた、大きな水族館に行こうね。
お天気になりますように…。