持田ヘルスケア株式会社

スキナベーブ エッセイコンテスト

【第10回】
~ 赤ちゃんとの記念日 ~

入選

立会い出産、待ったなし!

京都府  主婦  32歳

主人はとっても怖がりだ。特に血を見るのが苦手で、採血の際は、倒れないようベッドに横たわり、目をつぶってから受ける程の怖がりようだ。
そんな主人は、私の妊娠が分かった時、飛び上がらんばかりに喜んだ。元々子供が大好きな人だ。すぐにパパママ教室に通い、ベビーグッズを用意し、子供の名前も幾通りも考え、万全の態勢を整えていた。
しかし、妊娠八ヶ月を過ぎ、病院の受付で
「ご主人、出産の際の立会いはどうされますか。」
と聞かれた途端、あんなに今まで臨戦態勢だった主人の動きがピタッととまった。明らかに返答につまっている様子。私が
「初めての出産だし、ちょっと心細いな。」
と言ったところ
「立ち会います。」
と小さな声で返事をした。
そして迎えた出産当日。陣痛は15時間を超え、私は意識が朦朧としていた。やっと分娩室にうつる事になり、歩く事もままならず、よろよろと分娩台にのぼったところ、あれ?さっきまで側にいた助産師さんも看護師さんもいない…ふと横を見ると、主人が真っ青な顔をしてうずくまっていた。血を見るどころか、分娩室に入っただけで、緊張が頂点に達し、気分が悪くなってしまったらしい。
「ご主人、大丈夫ですか。」
「上着をゆるめましょうね。」
看護師さん達に介抱される主人を呆然と見る、もはや痛み絶頂の私。
「もう外で休んでていいから!私一人でも大丈夫だから!」
と思わず叫んでいた。しかし、主人は分娩室を出る事はせず、なんとか持ち直し、最後まで出産に立ち会ってくれた。
息子は、大きくて力強い産声をあげて生まれてきた。さっきまでお腹の中にいたのに、もう今は私の胸の上で、懸命におっぱいを探している。そのあたたかな感触は、私に不思議な感動を与えてくれた。そして、横にはずっと付き添ってくれた主人がいた。その時、「家族三人になったんだ」と初めて思った。この瞬間を、私は一生忘れないだろう。
出産後部屋で撮った写真を見ると、大仕事を終えた私がハツラツとした顔をしているのに対し、主人は精も根も尽き果てた顔をしていた。
「まるで俺の方が出産したみたいな顔してるな。」
と主人が言い、二人で大笑いした。
その息子ももう三歳。日に日にお父さんに似てきて、怖がりなところまでそっくりだ。毎晩、お風呂場から聞こえてくる二人の笑い声を聞いていると、とても幸せな気持ちになる。
出産中倒れた事は、息子には内緒にしてほしいと頼む主人に、笑顔でうなずく私。しかし心の中では
「そんな約束はできないもんね!話ちゃうもんね!」
と思っている。だけど、安心してね。息子が生まれた時、顔を真っ赤にして何も言う事ができず、ただ涙ばかり流していたお父さんの事もちゃんと伝えるからね。

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