【第10回】
~ 赤ちゃんとの記念日 ~
入選
母親認定記念日
神奈川県 主婦 33歳
“やったー!ついに来た!やっぱり母ちゃんが良いのよね!”
この日、私ははじめて息子から認められた気がする。今日は息子からの母親認定記念日だ。
いつものように朝起きると、夫が息子をシャワーに入れてくれ、私が着替えとベビーマッサージをする。一息ついたところで、私もざっとシャワーを浴びる。出てくると、珍しく出勤前の慌しい時間の中、夫が息子を抱っこしてあやしている。私は夫の抱っこを見ながら“今日は珍しく余裕があるのね”なんて思っていたら、「ほら、お母さん戻ってきたよ。良かったね。」と夫。「(私が)シャワーに行った途端キョロキョロしてお母さん探してぐずぐず泣いてたよ。俺が抱っこしたら、少しはおさまったけど、やっぱりお母さんじゃないとだめみたい。」今まで、そんなことはなくおもちゃで遊ぶか身支度をする夫をながめていればご機嫌でいた息子がである。息子は私に泣き顔を引っ込めいつものかわいい笑顔でにっこり。夫の手前、あまり大げさに喜べなかったが、私の中では万歳三唱だ。
息子が生まれて早5ヶ月、果たして私はちゃんと母親として息子のためにやれているのかと疑問や不安を持ちながら手探りの毎日である。我が家の息子は、ありがたいことに、いつでもどこでもコテンと眠れて、いつでも誰にでも愛想良しなのである。時折は「抱っこしてないと寝てくれないの・・・」と世の中のママたちと同じようなこともつぶやいてみたが、たまのことであり、誰がいてもどこにいても、“コテン、すーすー”と眠ってしまうのである。その速さは、オムツを替えてゴミ箱にごみを捨て振り返ると寝息をたてているほどである。そして、誰に対しても笑顔で対応。たとえ予防接種前の診察であれ、先生に満面の笑みを浮かべている。笑ってる場合じゃないよ!と思わずツッコミたくなる母を横目にご機嫌である。そんな愛想良しの息子は、私がいなくてもどなたか遊んでくれる方がいればご機嫌なのである。友人が来て、お茶を入れようと私がキッチンへ行き姿が見えなくても友人が遊んでくれていればご機嫌。もちろんお父さんと二人ならもっとご機嫌である。だいぶ目が見えて人を識別しているなとわかるようになってからも、お父さんと二人でお散歩もお留守番もへっちゃらである。私が買い物に出ようとすれば、二人でお見送りまでしてくれる。ただし、空腹時以外である。お父さんと二人で楽しく過ごしていても、眠くなって“ちょっとおっぱい飲みたいな・・・”と思ったらどんなに好きなお父さんでも用無しとばかりに泣いている。そんな時、私が現れ抱っこするとピタッと泣き止む。なんてかわいい息子でしょう!と有頂天の私に「やっぱりおっぱいには勝てないな。」と夫が一言つぶやいた。そうなのか、そうだろう。私じゃなくて、おっぱいがあればお父さんだって良いのよねと、私もがっくりである。そういえば、生後2ヶ月ごろ同じく乳飲み子を抱える妹のおっぱいを満足げに飲んでいたっけ・・・
そんなよく寝てニコニコしている息子は、周囲も思わず「いい子だね。手がかからないね。楽だよね。」というほどに手がかからない。そんなわけで、“こんなに手がかからなくていいのか?私が何か足りないの?遠慮しているのか??息子よ”と言いたくなってしまうほど楽をさせてもらっているせいか、母としての自信がもてなかった私。
しかし、今日、“お腹がすいてなくても母ちゃんが居ないと駄目!”と訴える息子から、「毎日なかなか母ちゃん頑張ってるから認めてやるよ!」と言われた気がする。きっと、姿が見えなくなる度に泣くようになって「トイレぐらい落ち着いて行かせておくれ」と息子に頼む日が来るだろう。そして、こんなことを喜んでいた自分をあざ笑う日がくるかもしれない。それでも、息子が母ちゃんべったりなのは、きっと一瞬の時期であろうから、存分に楽しんでおきたいと思う。