【第10回】
~ 赤ちゃんとの記念日 ~
入選
ひひひ
愛知県 会社員 26歳
「そうか、そうか。よかったなぁ」
私が妊娠していることを祖母に伝えたのは入居している特別養護老人ホームの祖母の部屋だった。
2年ほど前から認知症がひどくなり、それと平行するように元々悪かった膝の痛み・大腿骨の骨折と介護が必要な状況になってしまった祖母。祖父と田舎で2人暮らしをしていたが、祖父だけでは介護できず、半年ほど前から特別養護老人ホームに入居していた。
一時期は会いに行っても相手が誰かわからないような状態だったが、最近はホームの介護が良いのか面会の時には相手が誰かわかって会話ができるようになっていた。
ちょうど3ヶ月目の半ば頃、私は祖母に妊娠したことを告げた。
私は祖母にとって初孫であり、おなかにいる子供は初ひ孫になる。里帰り出産で産まれた私は祖母に抱かれた写真がたくさん残っている。
「おばあちゃん、ひ孫になるんだよ」
エコー写真を渡してそう伝えると、
「ひぃばあさんか。ひひひ」
と老眼もあり、多分見えないであろうエコーの写真を撫でながら祖母は笑った。
「身体、大事にしないかんよ」
帰ることを告げると、少し寂しそうにしながら祖母は言って手を振った。
帰り道、私はエコーの写真を撫でていたしわくちゃの祖母の手と「ひひひ」と笑った顔が思い出されてなんだか胸がいっぱいになった。
しばらく経ったある日、母から電話がかかってきた
「すごいよ!おばあちゃん、赤ちゃんのこと覚えててね。
私におばあさんになるから忙しくなるなって言ってたよ」
興奮しながら話す母に
「覚えててくれたんだ・・・」
と言うと
「麻奈がお母さんになるんだってなぁ。よかったなぁって言ってたの。」
祖母は私が面会に来たことを覚えていたのだ。
認知症で食事を摂ったことすら忘れてしまう祖母が覚えていてくれたことが本当にうれしかった。
その後、面会に行く母に毎回
「麻奈は元気にしてるか?赤ん坊は順調か?」
と尋ね、順調だと母が答えると
「よかったなぁよかったなぁ」
とうれしそうに笑っているそうだ。
あと3ヶ月後、ひぃばあちゃんになった祖母に子供を抱いてもらって一緒に写真を撮りたいと思う。