【第10回】
~ 赤ちゃんとの記念日 ~
入選
仲直り記念日
熊本県 焼肉店の若女将 27歳
その日は、曇っていた、と思う。
朝9時ごろ、私の携帯電話が鳴った。次女が入院している産院からだ。
「…はい、わかりました。それでは後ほど伺います。」 5分程看護師さんと話し、電話を切った。
近くにいた夫の顔は見ず、携帯の待受画面を見つめながら私はボソッと言った。
「体重が2300gになったから、今日退院できるんだって。」
口を開くのにちょっと勇気がいった。なんせ夫とは3日間、一切口をきいていなかったから。
次女の仁子は、37週で産まれたが、1896gの未熟児だった。母子供に何も異常はなかったが、体重が2300gに達さないと退院できないため、新生児センターに入院していた。先に退院した私も、毎日授乳に通っていたが、周りの心配をよそに、本当によく母乳を飲んでくれて、順調に大きくなっていった。
産まれたのは今年の2月15日。体重が増えて退院できるには、3月いっぱいはかかるだろうと言われていた。
そんな3月に入ってすぐの出来事。
ささいな事で、夫と喧嘩をした。その日も、次の日も、一切口をきかず、目も合わせなかった。
夫は夜が仕事のため、日中は家に居る。顔を合わせたくない私は、授乳の時間よりも随分早く家を出て、授乳が終わったら、産院のすぐ近くのデパートで時間をつぶした。
ところがである。不思議な事があるものだ。喧嘩している3日間のあいだに、次女の体重が一気に増えて、目標に達してしまったのだ。看護師さんもビックリの、まさに奇跡。
授乳に来る私のオーラから何かを察したのだろうか?
「私が早く家に帰ってパパとママを仲直りさせないと!」と思ったのだろうか?だって偶然にしては、あまりにもタイミングが良すぎるではないか。
おかげ様で、夫婦協力して急いでベビー用品をひっぱり出して、退院の準備をした。会話も復活した。
3日ぶりに、我が家に笑顔が戻った。
大きくなったとはいえ、2300gの新生児は、片腕で抱けるくらい小さい。こんなに小さな赤ちゃんが、ヒビの入った夫婦をくっつけてくれたのだ。
まさに、「子はかすがい」。
仁子ちゃん、ありがとう。あなたの退院記念日は、パパとママの仲直り記念日です。