【第10回】
~ 赤ちゃんとの記念日 ~
入選
はじめての誕生日プレゼント
大阪府 主婦 28歳
月並みな言葉だけれど、生命の誕生は奇跡だ。今は本当に言葉通りだな、と思える。たくさんの人がいる中、私とパパは出会い、すごい確率で私のおなかにあなたがやってきてくれた。そんな存在だからなのか、赤ちゃんには不思議な力があるような気がする。理屈では説明できない、幸せを運んできてくれる魔法みたいな力。あなたは最高の贈り物をもって生まれてきてくれたね。
私の実家はちょっと多めで、七人家族。祖父母、両親、二人の弟。人数が多いと何をするにも、かさ高くてにぎやか。まるでサザエさん一家のようだった。昔はイベントがあるごとにみんなで参加。大晦日、クリスマス、お盆。何でも七等分。子供のおやつは全部三等分。ちっちゃくなるから少しでも大きいのを取り合った。ケンカもいっぱいした。でもみんな一緒で温かかった。
でもいつからだろうか。それぞれの生活ができてきて、スケジュールが合わなくなり、イベントもみんながそろわなくなった。同じ食卓を囲まなくなった。全員がそろう機会がなくなった。そうしているうちに私も弟たちも家を出て、父母は仕事が忙しくなり、祖父母は自分の部屋で過ごすようになり、いつの間にかみんなで集まっていた居間には人影がなくなっていた。それでも私は今の生活に必死で昔を振り返ることすらなくなっていたのだ。
そうしていつの間にか長い時間が過ぎ、私のおなかに待望の赤ちゃんが宿った。私たち夫婦にとっては一つの転機だった。二人きりの生活から三人の生活への準備が始まった。
その頃、私の家族も私の知らないところでそれぞれ転機を迎えていたのだ。上の弟は三年勤めた会社をやめ、地元の役場に転職していた。下の弟は不況のあおりを受け、卒業後も就職活動することになり、実家へ帰って来ざるを得なくなっていた。早朝から働き、夜12時にしか帰れなかった父は早期退職していた。私に心配かけまいと黙っていたのだ。そうして私は赤ちゃんを産んでから、実家へ一ヶ月の里帰りしたのだ。
帰って驚くことに、偶然に全員の時期が重なり、家族全員が実家に集結していた。そして、もう二度とないと思っていた家族全員そろっての生活が始まった。
全員を巻き込んでの赤ちゃんのお世話。みんなで悩み協力しあう生活が、赤ちゃん中心に出来上がったのだ。「ほんまにかわいいね~」と抱っこの取り合い。泣きやまない時はみんな汗だくであやす。私が産後と育児の疲れで精神的につらい時、母が私を育てた経験談を語って励ましてくれた。初めての子供、初孫に、ワクワク、ドキドキ、ヒヤヒヤの連続。そうしてあっという間の一ヶ月がすぎ、私が夫のいる家に帰る日がやってきた。その日は偶然にも私の誕生日だったのだ。
家族全員で食卓を囲む。おばあちゃんが内緒でケーキを買っておいてくれた。それは私が小さな頃、いつも誕生日に用意してくれた近所のパン屋さんのケーキだった。そして夫も加わり、八人で食卓を囲む。ぎゅうぎゅうだった。ケーキも八等分。昔とおんなじ、みんなでじゃんけん。話す会話の内容は全く変わっていた。でもそこにある空気は20年前頃とちっとも変わらない気がした。そこに夫もすんなり溶け込んでいる。その横でまるで「最高の誕生日でしょ!?」とでも言うようにあなたは口角を上げニヤっと笑ったような顔をした。その通り。最高の誕生日だ。
なんて幸せなんだろう。こんなにも私の周りにあふれている愛、そしてそれを結ぶ絆。つながっていく命。命は受け継がれていくんだ。これからは忘れずにずっとずっと大切にしていこうと強く思う。
生まれてきてくれたあなたが運んできてくれたとしか思えない偶然の重なり。それが私にいろんなことを思い出させ、気づかせてくれた。幸せにしてくれた。
まだまだ至らないママだけど、これから全身全霊であなたを育てていこう。それが私の人生に最高の贈り物をくれた、あなたへのお返しだから。