【第1回】
~ 妊娠・出産、新しい生命の誕生に接して ~
特別賞
ぼくのテレパシー
【一般部門】 高井 俊宏 栃木県 小学生4年 10歳
ルーちゃんのおなかにさわったら、
「こんにちは」
と言っているみたいに、おなかの中から、赤ちゃんがキックした。少しすると、動かなくなって、
「ここ、ここ」
とルーちゃんが言うところをさわると、また、
「ここにいるんだよ」
とキックした。もう、ずいぶん長い間、赤ちゃんはおなかにいるけど、まだ産まれてこないから不思議だよ。
「いつ産まれるの?」
と聞いたら、
「三月だから、あと二ヵ月くらいかな」って言って、おなかをさわった。今でも、すごく大きなおなかで、五才のはるなちゃんは、「ママ、おすもうさんみたい」
と言っているのに、二ヵ月たったら、おなかがやぶけてしまうんじゃないか、心配になってきた。
二年くらい前に、ルーちゃんのおなかに赤ちゃんがいた時も、よく、ぼくにおなかをさわらせてくれた。元気で、あばれていたから、「男の子じゃないの」と言ったら、やっぱりそうだった。でも、赤ちゃんが産まれた時、ルーちゃんも、ぼくも、みんなも、すごく泣いた。産まれる少し前に、男の子だってわかっていたけど、赤ちゃんは死んでいたから、一回も会えなかった。
「一度も、だいてあげられなかった」
と言って、ルーちゃんは泣いた。おなかは、ペタンコになっていたけど、赤ちゃんは、いなくなっていた。元気にあばれまわっていたのに、どうして、死んじゃったのかわからないかった。前は、
「男の子かな、女の子かな」
って、みんないつも言っていたけど、今はだれも言わない。
「元気な赤ちゃんだね」
とだけ言う。ぼくは、おなかにさわりながら心の中で、赤ちゃんにテレパシーを送っているんだ。
「ぜったい、会おうね。だっこしてあげるよ」ってね。ぼくのテレパシーは強いから、きっと、赤ちゃんは、守ってくれるはずだよね。
はるなちゃんが産まれてすぐに、お父さんとお母さんとお姉ちゃんで病院へ会いに行ったんだ。ガラスの大きなまどの向こうに、何人か赤ちゃんがいて、ルーちゃんの名前を言うと、かんごふさんが、ガラスの近くへ連れてきてくれるんだ。ぼくはまだ、ようち園だったから、
「見えない」
って言って、お父さんにだっこしてもらったよ。はるなちゃんは小さくて、目をつぶっていた。全然動かなくて、つまらなかったけど、二回目に会いに行った時は、豆みたいな手をゆっくり動かしていたよ。
「かわいいね」
って、小さい声で言ったんだ。
三月になってルーちゃんの赤ちゃんが、産まれたら、病院に会いに行くんだ。赤ちゃんは、ぼくだってわかるかな?ぼくの強いテレパシーでは、きっと男の子だと思うんだ。ルーちゃんのおなかは、ペッタンコになって、元気な男の子が顔がしわでいっぱいにして、泣いているんだ。みんなうれしそうに笑って、
「小さいね」
「元気だね」
って言うんだよ。早く三月になって、赤ちゃんに会いたいな。はるなちゃんは、ぼくが小さいからって、だっこさせてもらえなかったけれど、もうぼくは大きくなったから、きっと赤ちゃんをだっこさせてもらえるね。