助産師に聞く 妊娠初期Q&A
妊娠初期の悩み・不安
妊娠が判明してから安定期に入るまでは、からだも心も不安定になってしまうもの。
急激な自分のからだの変化に驚いたり、「おなかの赤ちゃんは大丈夫?」と心配になってしまったり。
助産師さんのアドバイスを参考に、リラックスしながらこの時期を乗り切りましょう。
妊娠初期は胎児器官形成期と言われていますが、薬やレントゲンの影響について教えてください。
妊娠に気づかずに飲んでしまった薬の影響は?
レントゲンは受けて良いのでしょうか?
妊娠後期なら薬を飲んでも大丈夫?
妊娠初期の心配事の中でも多いのが、妊娠前や妊娠に気が付く前に飲んだ薬やレントゲン検査による放射線の赤ちゃんへの影響に関することです。そのほかにも、薬に関する相談は妊娠初期だけではなく、妊娠全期間を通して多くの妊婦さんから寄せられます。
まずは、薬のお話です。
お母さんが飲む薬によるおなかの赤ちゃんへの影響は、大きく2つに分かれます。
赤ちゃんのからだに奇形を作る「催奇性(さいきせい)」と発育や機能に悪影響を及ぼす「胎児毒性(たいじどくせい)」です。何の薬を、どの時期に、どのくらいの量を、どのくらいの期間飲んだかによって、赤ちゃんへの影響が変わってきます。
もし、すでに薬を飲んでしまったり、レントゲン検査を受けてしまったりしたことについて医師に相談する場合、妊娠してからの、どの時期のことだったかを具体的に伝える必要があります。妊娠何週の出来事だったかを知るためです。ですから、ご自分の「最終月経がいつだったか。」「生理の周期は何日くらいなのか。」を併せて把握しておくことが大切です。そして、ご自分の妊娠週数を正確に知った上で、“時期によって赤ちゃんにどのような影響が起こる可能性があるのか”ということを知っておきましょう。
○受精前から妊娠3週末
この時期までの薬やレントゲンの影響で、奇形を起こすことはありません。薬やレントゲンの影響を受けた受精卵は妊娠に至らないか、妊娠していたとしても妊娠の継続ができず、流産に至ります。順調に妊娠が継続できていれば、赤ちゃんは薬の影響を受けていたとしても完全に修復して正常な状態だと考えてよいでしょう。
○妊娠4週〜妊娠7週末
この時期は器官形成期といって、中枢神経が形成され、心臓や目、手足などの重要な器官が作られ、薬や放射線による影響を最も敏感に受ける時期です。
ただし、この時期に薬を飲んでしまったりレントゲン検査を受けてしまったりしたからといって、必ず赤ちゃんに悪影響が出るというわけではありません。
○妊娠8週〜妊娠11週末
この時期もまだ器官形成期です。手足の指や性器など細かい部分が形成されている時期なので、大きな奇形は起こしませんが、ホルモン剤で小さな奇形が起こる可能性があります。
○妊娠12週〜お産まで
奇形は起こしませんが、赤ちゃんの体の機能は大人に比べて未熟であることから、薬に対する抵抗力が弱く、赤ちゃんの体に薬の作用が強く出てしまうことがあります。また、生まれてきた赤ちゃんに薬の作用が一時的に残ることもあります。妊娠初期よりも妊娠後期〜分娩に近いほどこのような影響が出やすくなります。
赤ちゃんにこのような影響が出る危険性が高い薬には、抗がん剤やホルモン剤、抗てんかん薬などがあります。このような薬が必要な持病がある方が、妊娠初期の器官形成期の時期に大量に服用を続けると、奇形の危険性が高まるといわれています。
しかし、持病の治療のために薬を飲んでいる場合、薬を飲むことを自己判断で中断してしまうことで、逆に赤ちゃんに悪影響を及ぼしてしまうことがあります。妊娠を継続するために薬で病気をコントロールしていかなければいけない場合もあるのです。ですから、持病のある方は妊娠中の治療方針について、担当の医師と早い時期からきちんと相談をしておきましょう。
風邪薬や頭痛薬などの市販薬は、たとえ器官形成期にあたる時期であっても、適切な用量を一時的に服用してしまっていたということであれば、まず心配しなくて大丈夫だといわれています。市販薬のほとんどには「妊娠中、授乳中の方は服用しないでください。」とか、「妊娠中、授乳中の方は医師に相談をしてください。」と書いてありますが、これは、「危険な薬です。」という意味ではなく、「赤ちゃんに影響する可能性がゼロとは言い切れないです。」という意味なのです。
しかし、“心配しなくても大丈夫”とはいっても、「赤ちゃんに影響する可能性がゼロとは言い切れない。」という以上、できる限り妊娠中、特に器官形成期の時期には薬を飲まないに越したことはないでしょう。
お母さんが飲んだ薬は、妊娠中は胎盤を通して、そしてお産後は母乳を通して赤ちゃんの体の中に入ることになります。ですから、妊娠初期だけではなく、妊娠全期間、授乳期間のしばらくの間は薬を飲むことに関しては慎重になりましょう。薬が必要そうな場合は、その都度医師に相談し、自分の症状に合ったものを処方してもらいましょう。
次に、放射線のお話です。
放射線による影響は「妊娠4週〜妊娠10週までの赤ちゃんの被爆は奇形を発生させる可能性があり、妊娠10週〜妊娠27週では中枢神経障害を起こす可能性がある。」といわれています。しかし、それは原発事故ほどの被曝をした場合で、レントゲン検査ほどの放射線量では胎児奇形や胎児死亡などは引き起こさないとされています。
しかし、薬の場合と同様、「100%安全」ということではないので、妊娠に気が付く前にレントゲン検査を受けてしまったということがあれば、念のため医師に相談しておきましょう。
この先、妊娠中に妊娠に関係のない症状で他の科を受診する際は、必ず妊娠している旨と妊娠週数を医師に伝え、治療を受けるようにしましょう。そして、産婦人科の主治医にもその治療を受けていることをきちんと伝えておきましょう。
遺伝や環境が原因で障害が起こる確率と、妊娠期間に薬を飲んだことやレントゲン検査の影響で障害が起こる確率はほぼ変わらないと言われています。しかし、妊娠経過中やお産後にご自分の体調や赤ちゃんに何か異常があった場合、「あの時、あれをしたかもしれない…」と色々と原因を探ってしまうものです。大きな事故に遭ってしまいレントゲンを撮らなければいけない状態や、持病をお持ちで医師の判断で薬を飲み続けなければいけないといった場合でない限り、“検査や治療を受けるかどうか”は最終的に自分で決めなければいけません。ですから、ご自分が納得のいく決断ができるように専門機関や産婦人科の医師に相談することをお勧めします。
回答いただいた助産師さん
大谷紗弥子さん
聖母病院(東京都新宿区)勤務。
妊産婦さんやそのご家族が安心して新たな家族を迎えられるようにサポートをするかたわら、妊娠前の女性や妊婦さんへの食育やマタニティヨガを通して、女性のからだづくりにも携わっている。